卵発生生物学研究室


阿部洋志 准教授 分子細胞生物学、卵成熟の分子機構 理学部3号館614号室 habe#faculty.chiba-u.jp(#→@)



減数分裂進行を細胞骨格制御の観点から読み解く

卵成熟は, 卵母細胞の減数分裂の再開から紡錘体形成に至る過程であり, 動物が次世代を生み出すために必須の過程である. この卵成熟過程の進行に伴い, 染色体は細胞骨格成分と相互作用しながら最終的に紡錘体の形成を完了するが, その分子機構の理解にはまだ不明な点が数多く残されている. アフリカツメガエル卵母細胞は直径1.2 mmに及ぶ巨大な細胞であり, 紡錘体形成に至る過程において独特な構造形成とその遷移過程が, 植物極側から動物極側に向かって一方向に秩序立って進行するため, 異なる細胞骨格成分間の相互作用という観点から本質的に重要な実験系を提供する. 本研究室では、アクチン・微小管・中間径フィラメントという3つの異なる細胞骨格要素の秩序だった相互作用という観点から, Xenopus卵母細胞の卵成熟における核膜崩壊から紡錘体形成に至る過程の分子機構を解明することを目的として研究を展開している.

主な研究テーマ

  1. 卵成熟過程における細胞骨格間クロストーク
  2. アクチン調節蛋白質コフィリンを核とする細胞骨格制御
  3. 核内アクチン動態とヘテロクロマチン構築の関連

卵成熟過程における細胞骨格間クロストーク

近年, 紡錘体の形成や卵表層への移動にアクチン繊維が関与することが種々の動物卵で見出され, 紡錘体とアクチン繊維との関係に注目が集まっている. また, 我々は独自に, 核膜を裏打ちしている中間径繊維のカテゴリーに含まれるラミン繊維の分散にはアクチン繊維の再編成が重要であることを見出し報告した. このように細胞骨格の相互作用は複雑に絡み合い, その総体として核膜の分散や紡錘体形成が進行すると考えられる. つまり, 問うべき主題は, 卵成熟の進行に伴い, 3つの異なる細胞骨格である微小管・アクチン繊維・中間径繊維はどのような分子機構で相互作用して紡錘体形成に至るのか, ということである.

アクチン調節蛋白質コフィリンを核とする細胞骨格制御

アクチン繊維を切断・脱重合するアクチン調節蛋白質コフィリンのリン酸化制御機構の存在が、卵成熟過程のアクチン繊維形成の動的な制御に必須であることを我々は報告してきた。コフィリンの作用を中心とするアクチン繊維の再編成は細胞機能にとって必須であり、そのリン酸化制御機構の詳細や、コフィリンと共同してアクチン繊維形成のダイナミクスを高める因子であるAip1やCAP1などの機能について、液-液相分離の観点も含め多角的に解析を進めている。

核内アクチン動態とヘテロクロマチン構築の関連

近年、核内アクチン繊維形成の動態がゲノムの転写や複製、遺伝子発現の初期化に関与しているという報告がなされ、その機能に注目が集まっている。そして2018年には、DNAの2本鎖切断の修復にArp2/3 complexを主体とするde novoのアクチン繊維形成が必須であるという予期せぬ結果が示された。我々は独自に、核内アクチン繊維形成の動態制御がヘテロクロマチン構造の変化と相関する現象を見出し、現在その分子機構の解析を行っている。

最近の研究業績

原著論文

  1. Yamagishi Y, Oya K, Matsuura A and Abe H. (2018) Use of CK-548 and CK-869 as Arp2/3 complex inhibitors directly suppresses microtubule assembly both in vitro and in vivo. Biochem. Biophys. Res. Commun. 496, 834-839.
  2. Yamagishi Y and Abe H. (2018) Actin assembly mediated by a nucleation promoting factor WASH is involved in MTOC-TMA formation during Xenopus oocyte maturation. Cytoskeleton 75, 131-143.
  3. Yamagishi, Y and Abe H. (2015) Reorganization of actin filaments by ADF/cofilin is involved in formation of microtubule structures during Xenopus oocyte maturation. Mol. Biol. Cell 26, 4387-4400.
  4. Iwase, S., Sato, R., De Bock, P., Gevaert, K., Fujiki, S., Tawada, T., Kuchitsu, M., Yamagishi, Y., Ono S., and Abe H. (2013) Activation of ADF/cofilin by phosphorylation regulated Slingshot phosphatase is required for the meiotic spindle assembly in Xenopus laevis oocytes. Mol. Biol. Cell 24, 1933-1946.
  5. Okada, I., Fujiki, S., Iwase, S. and Abe H. (2012) Stabilization of actin filaments prevents germinal vesicle breakdown and affects microtubule organization in Xenopus oocytes. Cytoskeleton 69, 312-323.
  6. Yamashiro, S., Abe, H., and Mabuchi I. (2007) IQGAP2 is required for the cadherin-mediated cell-to-cell adhesion in Xenopus laevis embryos. Dev. Biol. 308. 485-493.
  7. Tanaka, K., Nishio, R., Haneda, K., and Abe, H. (2005) Functional involvement of Xenopus homologue of ADF/cofilin phosphatase, Slingshot (XSSH), in the gastrulation movement. Zool. Sci. 22, 955-969.
  8. Tanaka, K., Okubo, Y., and Abe, H. (2005) Involvement of Slingshot in the Rho-mediated dephosphorylation of ADF/cofilin during Xenopus cleavage. Zool. Sci. 22, 971-984.
  9. Okada, K., Blanchoin, L., Abe, H., Chen, H., Pollard, T., and Bamburg, J. (2002) Xenopus actin interacting protein 1 (XAip1) enhances cofilin fragmentation of actin filaments by capping filament ends. J. Biol. Chem. 277, 43011-43016.
  10. Okada, K., Obinata, T., and Abe, H. (1999) XAIP1: a Xenopus homologue of yeast avtin interacting protein 1 (AIP1), which induces disassembly of actin filaments cooperatively with ADF/cofilin family proteins. J. Cell Sci. 112, 1553-1565.

総説

  1. Obinata, T.* and Abe, H. (1991). Regulation of Actin Assembly in Embryonic Chicken Skeletal Muscle by Three Different Actin-Binding Proteins. In Frontiers in muscle research (E. Ozawa, T. Masaki, and Y. Nabeshima, eds). Elsevier Science Publishers B. V. pp235-247.
  2. Abe, H. and Obinata, T.* (1989) Regulation of actin assembly in developing skeletal muscle: Isolation of two actin regulatory proteins from embryonic chick skeletal muscle. Cellular and Molecular Biology of Muscle Development Alan R. Liss, Inc. pp197-206
  3. 阿部洋志、大日方昂(2002)アクチンフィラメント結合タンパク質 ”細胞骨格と細胞運動—その制御のメカニズムー(竹縄忠臣編)” pp.43-49. シュプリンガー・フェアラーク東京
  4. 阿部洋志、大日方昂(2002)単量体結合タンパク質 ”細胞骨格と細胞運動—その制御のメカニズムー(竹縄忠臣編)” pp.62-68. シュプリンガー・フェアラーク東京

書籍

  1. 阿部洋志 (2018) 分担執筆:第1章 細胞そしてその先へ:分子生物学の世界 分子生物学ゲノミクスとプロテオミクス Jordanka Zlatanova & Kensal E. van Holde著 田村隆明監訳
  2. 阿部洋志 (2009) 分担執筆:第2章 ホルモン、ペプチド性生理活性物質、第3章 植物関連調節因子および細胞刺激因子、第17章 細胞研究および免疫研究関連試薬 ライフサイエンス試薬活用ハンドブック(田村隆明編)羊土社
  3. 阿部洋志(1997)蛍光抗体法 a) アフリカツメガエル卵 ”細胞生物学の基礎技術—細胞骨格・細胞運動へのアプローチー(馬渕一誠編)”pp.167-171. 羊土社

学生へのメッセージ

生物全体を見渡そう!若いうちに国内外の自然に入り生物を観察する機会を持とう。科学をするということは生き方の問題です。