最新の研究成果


研究紹介

理学部生物学科および大学院融合理工学府の生物学コースの教員や学生が行なった最近の研究成果について、論文として発表された成果を中心に紹介します。



ナメクジウオのBraとhhが脊索のミュラー細胞で発現することを発見(井口凜さん、小笠原准教授)

ナメクジウオは脊索動物の起源と進化を理解する上で重要な動物ですが、ナメクジウオの脊索を構成する細胞は、まだシングルセルレベルでは研究されていません。そこで本研究では、基礎生物学研究所、千葉大学、OISTの共同研究として、Iso-seq解析、シングルセルRNA-seq 解析、およびin situハイブリダイゼーション解析を行いました。その結果、脊索は筋原線維細胞と非筋原線維細胞に分類されること、いくつかの非筋原線維細胞(ミュラー細胞)ではBrachyury(Bra)とhedgehog(hh)が発現すること、これらのミュラー細胞は神経索や体節に作用することが分かりました。本研究は、脊椎動物の脊索が、祖先的な特徴を持つ頭索動物の脊索からどのように進化したのかを議論するための重要な手がかりを提供するものと考えられます。

Takahashi H*, Hisata K, Iguchi R, Kikuchi S, Michio Ogasawara M*, Satoh N*.(2024) A single-cell RNA-seq analysis of constituent cells of amphioxus notochord. Dev. Biol.508:24–37


発生ノイズの生じやすさが表現型可塑性の能力と相関することを発見(斉藤京太さん、高橋准教授)

従来の進化学では、遺伝的変異のみが進化に関与することが常識としれてきましたが、最近になって、表現型可塑性や発生ゆらぎ(発生ノイズ)などの非遺伝的な変異も進化に貢献することが明らかになってきました。しかし、これらの非遺伝的変異同士がどのような関係にあるのかはあまりわかっていませんでした。オナジショウジョウバエをさまざまな環境で飼育した際の翅の形態の差を可塑性、個体の左右差を発生ノイズとしてこれらの変異が定量したところ、 二つの非遺伝的変異の間には有意な正の関係があることが明らかになりました。すなわち、発生ノイズが生じやすい系統は、可塑性の能力も高いということです。これらの結果は、二つの非遺伝的変異が互いに関連しながら進化に影響している可能性を示唆しています。

Saito, K., M. Tsuboi, Y. Takahashi (2024) Developmental noise and phenotypic plasticity are correlated in Drosophila simulans, Evolution Letters, qrad069, https://doi.org/10.1093/evlett/qrad069


異質4倍体化に伴う遺伝子発現パターンの変化をコゲジゲジシダで解明(相内 桜さん、山本拓也さん、片山なつ博士、藤原泰央さん、綿野教授)

相内さん(2022年度)と山本君(2021年度)の卒業研究の成果が論文に結実しました。異質倍数体化は植物の主要な種分化機構の一つですが、両親種に由来する2つのサブゲノムの遺伝子発現での折り合いに興味が持たれています。本研究では、交配実験で作ったF1雑種と野生の異質4倍体を比較することで、遺伝子発現パターンにおける交雑による変化と、倍数化後の確立過程での変化を区別することに成功しています。コゲジゲジシダの起源解明については、過去の記事「新種ホウライゲジゲジシダの記載論文が発行されました」を参照ください。

Katayama N, Yamamoto T, Aiuchi S, Watano Y, and Fujiwara T (2024) Subgenome evolutionary dynamics in allotetraploid ferns: insights from the gene expression patterns in the allotetraploid species Phegopteris decursivepinnata (Thelypteridacea, Polypodiales). Front. Plant Sci. 14:1286320.


ショウジョウバエが季節間での急速な進化を遂げることを実証(上野尚久研究員、竹之下彰子さん、浜道凱也さん、高橋佑磨准教授)

季節による環境変化は、生物が経験する環境変化の中でもっとも急速なものの一つである。一方で、生物が、環境の季節変化に対応して迅速に進化をしているかは、あまりわかっていない。環境要因の影響を排除し、進化(=遺伝的変化)の検出を試みたところ、冬を越えた直後の「春世代」と夏を越えた直後の「秋世代」の間での高温耐性と体サイズが進化していることを示された。生物が季節による環境変化に対し、超高速な進化を起こしていることを示す貴重な証拠となった。

Ueno, T., A. Takenoshita, K. Hamamichi and Y. Takahashi (2023) Rapid seasonal changes in phenotypes in a wild Drosophila population. Scientific Reports, 13: 21940.


ホヤは膵臓関連遺伝子群を発現する第2第3のホヤ胃を持つことを発見(井口凜さん、臼井佳奈英さん、中山理さん、小笠原准教授)

脊椎動物の消化管の進化研究モデルであるカタユウレイボヤでは、膵臓関連の消化酵素遺伝子がホヤの胃で特異的に発現しています。しかし、近年の成体組織/器官のRNA-seq研究では、消化酵素遺伝子の発現が、腸の領域でも低レベルで検出されます。そこで本研究では、膵臓系外分泌消化酵素遺伝子の空間的遺伝子発現を繰り返し解析し、ホヤの胃だけではなく、その後方の腸の複数領域でも発現がみられる場合があることを明らかにしました。またpdx-GFPコンストラクトを用いた実験により、膵臓関連のParaHox遺伝子pdxが、ホヤでは複数の消化管領域で発現することが確認できました。これらの結果は、ホヤの消化管が膵臓/十二指腸領域(ホヤ胃)を複数持つことを示すとともに、ParaHoxによる消化管の前後パターニングの可塑性による消化管の機能形態進化の理解につながることが期待されます。

Iguchi R, Usui K, Nakayama S, S, Sasakura Y, Sekiguchi T, Ogasawara M. Multi-regional expression of pancreas-related digestive enzyme genes in the intestinal chamber of the ascidian Ciona intestinalis type A. Cell Tissue Res. (2023) 394:423–430. doi: 10.1007/s00441-023-03839-6


ホヤの吸収関連遺伝子が消化管の前後・背腹で反復的に発現していることを発見(井口凜さん、中山理さん、小笠原准教授)

従属栄養生物である三胚葉性動物にとって、消化管を用いた栄養摂取は不可欠です。消化管の形態は食性に応じて多様化しますが、摂取→消化→吸収→排出といった一連の機能的機序は、動物間で幅広く共有されています。本研究では、我々ヒトに近い脊索動物ホヤを用い、消化管の栄養摂取領域を、吸収関連遺伝子群の発現をもとに評価しました。その結果、吸収・飲作用・食作用に関与する遺伝子群は、胃と複数の消化管領域で発現することがわかりました。さらに消化や免疫に関与する遺伝子を含めた遺伝子発現解析を行った結果、カタユウレイボヤの胃腸管は、前後・背腹に沿って、類似反復的な遺伝子発現特性を持つことがわかりました。これらの成果は、我々ヒトを含む消化管の機能形態の進化的多様性の理解につながっていくことが期待されます。

Iguchi R, Nakayama S, Sasakura Y, Sekiguchi T, Ogasawara M. Repetitive and zonal expression profiles of absorption-related genes in the gastrointestinal tract of ascidian Ciona intestinalis type A. Cell Tissue Res.(2023) 394:343–360. online doi: 10.1007/s00441-023-03828-9


昆虫の殻の「切り取り線」をつくる仕組みを解明(田尻准教授)

昆虫の全身はクチクラと呼ばれる殻や皮のようなもので覆われています。クチクラは異物の侵入を防ぐバリアとして、また体を物理的に保護する鎧として、昆虫の生存に必要不可欠なものですが、一方で昆虫の成長過程において体のサイズや形の大きな変化を妨げるものともなります。その制限を乗り越える手段として重要なのが、脱皮や羽化というクチクラの交換プロセスです。脱皮や羽化の際には、古いクチクラが特定の「切り取り線」で開裂し、新しいクチクラを身にまとった体が現れます。しかし、そのような切り取り線がいつ、どうやって作られるのかは、よく分かっていませんでした。本研究では、ショウジョウバエの幼虫期にクチクラに形成される特殊な構造が羽化の際の切り取り線となることを示しました。さらに、幼虫期にクチクラ直下の表皮細胞で活性化するNotchシグナルがその特殊構造の形成を制御することを明らかにしました。

Reiko Tajiri, Ayaka Hirano, Yu-ya Kaibara, Daiki Tezuka, Zhengyang Chen, Tetsuya Kojima (2023) Notch signaling generates the “cut here line” on the cuticle of the puparium in Drosophila melanogaster. iScience 26, 107279.


アメリカザリガニの寒冷環境への進出に関わる遺伝基盤を解明(佐藤助教)

北米大陸南部を原産とするアメリカザリガニは、人間活動の拡大に伴って日本を含めた世界各地に分布を拡げており、その侵略性の高さから在来生物の局所的な消失や絶滅が懸念されています。特に近年、本来苦手と考えられてきた寒冷地域にも進出しており、北海道・札幌では冬季の水温が0℃近くになる場所で本種が繁殖をしている可能性が報告されました。そこで、佐藤大気助教は牧野能士教授(東北大学)らと共同で、本種の低温適応に関わる遺伝基盤を検証しました。生存実験から、札幌集団は仙台集団に比べて低温耐性が高いことが分かりました。また、遺伝子発現量解析により、両集団で反応が異なる遺伝子群として、キチンやクチクラといった外骨格の形成に関わる遺伝子群のほか、免疫反応や細胞の維持に重要な、タンパク質分解酵素を阻害する働きを持つ遺伝子群が検出されました。さらにゲノム解析から、これらの遺伝子群がアメリカザリガニの系統で特に遺伝子重複を経験していることが明らかとなりました。これらの結果から、上記遺伝子群が遺伝子重複を経て発現が増幅されることで、機能が強化され、低温に対する耐性を獲得している可能性が考えられます。

Sato D.X., Y. Matsuda, N. Usio, R. Funayama, K. Nakayama, T. Makino (2023) Genomic adaptive potential to cold environments in the invasive red swamp crayfish. iScience, 26(8):107267.


オートファジーの新規阻害剤を発見(千葉桃果さん、松浦教授、板倉准教授)

マクロオートファジー(以下、オートファジー)は、オートファゴソームによって細胞内の不良タンパク質を取り囲み、分解へ導くことで、細胞内をきれいに保つタンパク質品質管理システムです。オートファジーは様々な生理的現象に関わっており、例えば、一部の癌細胞ではオートファジーの活性化が癌の増殖に利用されると考えられています。したがって、薬剤によるオートファジー活性の制御は疾患治療や健康増進に役立つと期待されています。私たちは、ビス・トリブチルスズ(bTBT)化合物が、これまでのオートファジー阻害剤とは異なる作用によってオートファジーを阻害する、新しいタイプのオートファジー阻害剤であることを発見しました。今後、阻害の分子機構を明らかにすることで、オートファジー特異的な阻害剤としての利用が期待されます。

Momoka Chiba, Mai Yanagawa, Yurika Oyama, Shingo Harada, Tetsuhiro Nemoto, Akira Matsuura and Eisuke Itakura (2023) A novel autophagy inhibitor, bTBT, disturbs autophagosome formation. Autophagy Reports, 2(1): 2194620


α2マクログロブリンが変性タンパク質を分解する役割を発見(富張彩佳さん、清田真子さん、松浦教授、板倉准教授)

人の組織間は体液で満たされています。例えば、血液は栄養や代謝産物だけでなく、組織間の情報伝達や物質輸送のために様々なタンパク質も輸送しています。しかし、タンパク質は熱や酸化などのストレスによって変性し、異常タンパク質になります。α2マクログロブリンは血液中に豊富なタンパク質の一つであり、プロテアーゼ阻害因子として知られています。今回、板倉英祐准教授らの研究グループは、 α2マクログロブリンが体液中で変性して不要になったタンパク質を認識し、細胞内のリソソームへ運び、分解へ導く役割をもつことを発見しました。これにより細胞外環境のタンパク質品質管理システムの一端が明らかとなりました。

Tomihari, A. Kiyota, M. Matsuura, A. & Itakura, E. (2023) Alpha 2-macroglobulin acts as a clearance factor in the lysosomal degradation of extracellular misfolded proteins. Scientific Reports, 13:4680


小胞体内の異常なタンパク質をオートファジーが認識する分子機構を発見(石井俊輔さん、松浦教授、板倉准教授)

小胞体は分泌タンパク質を合成する小器官として働きますが、異常タンパク質が小胞体内に蓄積してしまうと分泌能が低下し、急性膵炎など様々な疾患の原因の一つとなると考えられています。それを防ぐため、オートファジーが異常タンパク質蓄積した小胞体を分解する(ER-phagyと呼ぶ)ことで、小胞体の恒常性が保たれますが、ER-phagyがどのようにして膜で隔てられた小胞体内の異常タンパク質を検知しているのかよくわかっていませんでした。本研究では、千葉大学(板倉研)と東京大学(水島研)の共同研究グループは、小胞体膜タンパク質であるCCPG1が、その小胞体内腔ドメイン(積荷認識ドメイン)によって異常タンパク質を捉え、細胞質側ドメインによってオートファゴソーム因子と結合することを発見しました。これにより、CCPG1が小胞体内異常タンパク質とオートファゴソーム膜、両方の受容体として働くことで、小胞体内異常タンパク質ごとER-phagyによって一部の異常小胞体を分解することを明らかとしました。

Ishii, S., H. Chino, K. L. Ode, Y. Kurikawa, H. R. Ueda, A. Matsuura, N. Mizushima, and E. Itakura (2023) CCPG1 recognizes ER luminal proteins for selective ER-phagy Mol Biol Cell, mbcE22090432.


日本産ナガオノキシノブを新種として記載しました(藤原泰央さん、綿野教授)

日本産ナガオノキシノブは、中国産の標本がタイプになっているLepisorus angustus Chingと同種とされてきましたが、日本固有の新種L. rufofuscus T. Fujiwaraとして記載しました。本解析により、中国産L. angustusとは分子系統学的にも形態学的にも区別できること、また葉緑体DNA系統樹で近縁となったL. contortus (Christ) Chingとは染色体数が異なる(ナガオは2n = 52;L. contirtusは2n = 48)こと、形態的にも区別が容易である事を示しました。

Fujiwara, T., K. Yoneoka, Z. Liang, A. Ebihara, H. Schneider, N. Murakami, Y. Watano (2022) Lepisorus rufofuscus sp. nov. (Polypodiaceae), a New Fern Species Segregated from L. angustus Ching. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica. 73: 171-182.


夜間の人工光(光害)が昆虫の活動や進化に与える影響を解明(佐藤あやめさん、高橋准教授)

都市化の進行は、生物の減少や絶滅の原因の一つであると考えられています。高橋佑磨准教授と佐藤あやめ大学院生(当時)はオウトウショウジョウバエを対象に、都市化に伴った温度変化や夜間の光環境の変化の影響を評価しました。その結果、都市で見られるような夜間の人工光が本種の一日の活動パターンを一変させることが明らかになりました。一方で、都市の集団の個体は、都市のストレスへの耐性を獲得していることもわかりました。都市の個体は、夜間照明の影響を受けにくく、かつ、高温に強くなるように、「進化」していたのです。都市の個体は夜間に活動するようなパターンも見られました。本研究のように、都市化によって生じたさまざまな環境ストレスが生物に与える影響やそれに対抗して生じる生物の進化を理解することは、都市における各生物種の栄枯盛衰を理解するだけではなく、都市化に伴った生物の減少を最小化するための方策を考える上で重要な知見となると期待されます。

Sato, A. & Y. Takahashi (2022) Responses in thermal tolerance and daily activity rhythm to urban stress in Drosophila suzukii. Ecology and Evolution, 12, e9616. https://doi.org/10.1002/ece3.9616


チリメンカワニナの感潮域進出に生物時計の変化が関与していたことを解明(横溝 匠さん、高橋准教授)

生物は体内時計を獲得し、周期的な環境変化に適応しています。河川の下流域は潮汐サイクルの影響を受ける感潮域になっており、上流とは異なる環境サイクルを示します。河川性巻貝のチリメンカワニナは、一部の河川で上流から感潮域まで分布を広げており、感潮域集団は潮汐サイクルに同調した内在リズム(概潮汐リズム)を獲得している可能性があります。私たちは感潮域集団と非感潮域集団の活動リズムを解析し、感潮域集団のみが概潮汐リズムをもつことを明らかにしました。また、遺伝子発現リズムを調べてみても、感潮域集団のほうが多くの概潮汐振動遺伝子をもっていることがわかりました。これらの結果は、感潮域進出に伴い内在リズムの変化が生じたことを示唆しています。

Yokomizo, T. and Y. Takahashi (2022) Endogenous rhythm variation and adaptation to the tidal environment in the freshwater snail, Semisulcospira reiniana. Frontiers in Ecology and Evolution, 10: 1078234. doi: 10.3389/fevo.2022.1078234


電位感受性ホスファターゼ(VSP)が、脊索動物の種を超えて腸管の飲作用領域で発現することを発見 (小笠原准教授)

電位感受性ホスファターゼ(VSP)は、膜電位に応じてホスホイノシチドホスファターゼ活性を制御する膜タンパク質です。大阪大学、基礎生物学研究所、千葉大学の共同研究グループは、ゼブラフィッシュ(魚類)を用いた機能解析およびホヤ(尾索類)を用いた遺伝子発現解析を行い、Vspが脊索動物の種を超えてエンドサイトーシス依存的な栄養吸収の制御において重要な役割を担っていることを示唆しました。千葉大学では、カタユウレイボヤのVsp 遺伝子の発現が、飲作用関連遺伝子(Dab2)や吸収関連遺伝子(PEPT1, SGLT1, GLUT5)と同様に、消化管上皮の飲作用/吸収領域に局在することを示しました。これらの成果は、Communications Biology誌に掲載されました。

Ratanayotha A, Matsuda M, Kimura Y, Takenaga F, Mizuno T, Hossain MI, Higashijima S, Kawai T, Ogasawara M, Okamura Y. Voltage-sensing phosphatase (Vsp) regulates endocytosis-dependent nutrient absorption in chordate enterocytes. Commun. Biol. (2022) 5:948


第四紀の気候変動に伴う祖先種の分布シフトが、異質4倍体イシガキウラボシの形成と確立を促したと提唱(藤原泰央さん、江頭翼さん、José Said Gutiérrez-Ortegaさん、綿野教授)

イシガキウラボシ(ウラボシ科ノキシノブ属)は、大きくニッチが異なるホテイシダとコウラボシという祖先親種の間の異質4倍体であることを明らかにしました。現気候下では、祖先親種の分布域が大きく異なり、交雑の機会がありません。生態ニッチモデリングによって、最終氷期の分布域推定を行い、冷温帯性のホテイシダが海岸域に分布を移したことが、交雑の可能性を増やした可能性を指摘しました。

Fujiwara, T., T. Egashira, J. S. Gutiérrez‐Ortega, K. Hori, A. Ebihara, and Y. Watano. (2022) Establishment of an allotetraploid fern species, Lepisorus yamaokae Seriz., between two highly niche‐differentiated parental species. American Journal of Botany 109(9): 1456–1471.


甲状腺関連転写因子(Nkx2-1, FoxE)が、ホヤ内柱の分泌領域と甲状腺相同領域の両方の細胞分化に関与していることを発見(山岸雅幸さん、小笠原准教授)

甲状腺は脊椎動物の咽頭に形成されるヨード集積器官ですが、無脊椎脊索動物の咽頭にも内柱と呼ばれるヨード集積器官が形成されます。本研究では、甲状腺の発生と機能に関与する転写因子Nkx2-1とFoxEの機能解析を、脊椎動物に最も近縁な動物群であるホヤを用いて行いました。カタユウレイボヤのNkx2-1遺伝子とFoxE遺伝子をそれぞれノックアウト(KO)すると、先に発表したオタマボヤでの遺伝子ノックダウン研究結果と同様に、それぞれ異なる内柱形成異常と遺伝子発現誘導異常が引き起こされました。一方で、ホヤのみにみられる最も背側の分泌細胞の分化がFoxEに依存するという新しい知見が得られました。さらに、ホヤ内柱における甲状腺転写因子Pax2/5/8遺伝子の発現・機能コンパートメントの形成・繊毛の分化は、Nkx2-1とFoxEとは異なるシステムによって成立することがわかり、Cell and Tissue Research誌11月号の表紙を飾りました。

Yamagishi M, Huang T, Hozumi A, Onuma TA, Sasakura Y, Ogasawara M. (2022) Differentiation of endostyle cells by Nkx2-1 and FoxE in the ascidian Ciona intestinalis type A: Insights into shared gene regulation in glandular- and thyroid-equivalent elements of the chordate endostyle. Cell Tissue Res., 390:189–205


シロイヌナズナミオシンXI(MYA2)の自己制御機構と2種類のステップ様式の解明(原口研究員,伊藤教授,吉村考平さん)

シロイヌナズナミオシンXIのMYA2は小胞体などのオルガネラに結合し,原形質流動を駆動する役割を担っている。しかし,その活性制御機構や運動様式については不明な点が多い。本研究では昆虫細胞発現系を用いて精製したMYA2の分子特性を調べた。その結果,MYA2の活性は自己の球状尾部ドメインにより制御されることが明らかになった。また全反射蛍光顕微鏡(TIRFM)と高空間分解能蛍光追跡法(FIONA)を組み合わせた解析により,MYA2はハンドオーバーハンド型とインチワーム型の2つの異なるステップモードを使用していることがわかった。以上の結果からMYA2は,複数のミオシンXIがオルガネラを迅速かつ円滑な輸送を可能にしていることがわかった。

Haraguchi T, Ito K, Morikawa T, Yoshimura K, Shoji N, Kimura A, Iwaki M, Tominaga M. (2022) Autoregulation and dual stepping mode of MYA2, an Arabidopsis myosin XI responsible for cytoplasmic streaming. Scientific Reports, 12:3150.


動物の細胞骨格を制御するnebulinスーパーファミリーの進化の過程を解明(藤田優輝さん、森本航太さん、寺崎講師、小笠原准教授)

脊椎動物のnebulinスーパーファミリー(nebulinリピートを持つタンパク質)は lasp-1、lasp-2、nebulette、N-RAP、nebulinの5つのアクチン結合タンパクが存在し、筋肉、シナプス、細胞基質間接着など様々な細胞骨格を制御しています。寺崎講師は無脊椎動物のnebulin スーパーファミリーであるlaspを発見していますが(Terasaki et al., 2008)、本研究ではlaspが多細胞生物の祖先とされている単細胞生物群のカプサスポラ属で3つの遺伝子断片の連結によって出現した事を明らかにしました。またlasp、lasp-1、およびlasp-2の周辺遺伝子の位置関係(シンテニー)に保存性が見られる事から、脊椎動物のnebulin スーパーファミリーはlaspから全ゲノム重複(無脊椎動物が脊椎動物に進化する過程で起きた染色体の倍数化)によって分岐したという仮説を提唱しました。無脊椎動物のlaspの機能を脊椎動物の5つのnebulinスーパーファミリーと比較することで、細胞運動の普遍性と進化に伴って獲得した多様性が明らかになることが期待されます(イラストは寺崎研の玉川拓実さんが研究成果のイメージをまとめたものです)。

Yuki Fujita, Tamami Chokki, Tatsuji Nishioka, Kouta Morimoto, Ayako Nakayama, Hiroki Nakae, Michio Ogasawara, Asako G Terasaki (2022)The emergence of nebulin repeats and evolution of lasp family proteins. Cytoekeleton 78: 419-435


生物界で最速のミオシンの発見とその構造解析に成功(原口研究員,玉那覇正典さん,吉村考平さん、伊美拓真さん、伊藤教授)

生物界最速のミオシンの遺伝子(シャジクモ ミオシンCbXI-1)を発見しました。さらに、最速のミオシンのクラスであるミオシンXI(シロイヌナズナ ミオシンAtXI-2)の高解像度結晶構造解析に世界で初めて成功しました。得られたAtXI-2の立体構造情報から最速ミオシンCbXI-1の3次元立体構造モデルを作成したところ、最速ミオシンの秘密はアクチンとの結合領域にあることを明らかにしました。これにより、作物などの私たちの生活に必要な植物である資源植物の大型化が期待でき、効率よく植物を栽培することが可能になります。この研究成果は、米国科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に2022年2月22日(日本時間2月21日)に掲載されました。

Takeshi Haraguchi, Masanori Tamanaha, Kano Suzuki, Kohei Yoshimura, Takuma Imi, Motoki Tominaga, Hidetoshi Sakayama, Tomoaki Nishiyama, Takeshi Murata, and Kohji Ito (2022) Discovery of ultrafast myosin, its amino acid sequence, and structural features. Proc. Natl. Acad. Sci. USA


ストレスを受けたタンパク質複合体(TRiC)をオートファジー依存的に分解するタンパク質品質管理経路を発見(伊達悠起さん、松浦教授、板倉准教授)

細胞内の不要なタンパク質の蓄積は、神経変性疾患など様々な病気の原因となります。しかし、十数個以上のタンパク質が集まった巨大タンパク質複合体の分解機構はよくわかっていません。板倉英祐准教授らの研究グループは、巨大タンパク質複合体の一つシャペロニン複合体(TRiC)に着目しました。アクチンタンパク質の折り畳みにはたらくTRiCは、アクチン重合阻害剤時にストレスを受けその活性を低下させ、不要になったTRiCはオートファジー依存的にリソソーム分解されることを発見しました。このことは、ストレスを受けた巨大タンパク質複合体を分解するタンパク質品質管理機構があることを明らかにしました。


個体の移動が生物の進化や分布拡大を妨げることを発見(玉川克典博士、吉田琴音さん、大類詩織さん、高橋准教授)

遺伝的多様性は、生物が進化をするために不可欠なものです。ただし、遺伝的多様性の外部からの供給があまりに多いと、供給を受ける集団は、環境に合わせた表現型を進化させることが難しくなります。多様性の供給元の集団が曝されている環境が違えば違うほどその影響は大きくなります。河川では、上流から下流に向けて水の流れがつねに存在します。移動能力の高くない種であれば、水流に沿って流され、移動することがほとんどです。そのため、下流側の集団では、上流に適応した遺伝子の流入をつねに受けるため、下流環境への適応進化が妨げられる可能性があります。そこで、河床勾配のことなる複数の河川で、移動能力に乏しいチリメンカワニナを採集し、標高間での遺伝子流動の程度や、下流側での環境適応の程度を比較しました。その結果、河床勾配の急な河川ほど、流程に沿った遺伝子流動が生じやすく、結果として、そのような集団では下流側での適応進化が生じにくくなっていることがわかりまました。さらに、下流集団での局所適応が阻害される結果として、下流側での分布拡大も妨げられていることが明らかになりました。これらの結果は、遺伝子流動による遺伝的多様性の過度な供給が、適応進化を抑制し、さらには、生物の分布拡大を抑制していることを示唆しています。

Tamagawa, K., K. Yoshida, S. Ohrui and Y. Takahashi (2022) Population transcriptomics reveals the effect of gene flow on the evolution of range limits, Scientific Reports, 12: 1318


突然変異の加速が多様化を促進することを発見(片山なつ博士、佐々助教)

河川の激流という過酷な環境へ適応した植物である水生植物カワゴケソウ科において、突然変異が生じるスピード(突然変異率)が、激流環境に進出したタイミング(科の起源の時期)と、その後に特殊形態を獲得したタイミング(科内で多様化が始まった時期)で上昇していたことを明らかにしました。

Katayama, N., S. Koi, A. Sassa, T. Kurata, R. Imaichi, M. Kato & T. Nishiyama (2022) Elevated mutation rates underlie the evolution of the aquatic plant family Podostemaceae. Commun. Biol. 5, 75.

新種ホウライゲジゲジシダの記載論文が発行されました(藤原泰央さん、小木曽純貴さん、石井壮佑さん、東郷慧さん、綿野教授)

新種Phegopteris taiwaniana T. Fujiw., Ogiso & Seriz.の記載を行いました。表紙にも採用されました。従来、ゲジゲジシダには2倍体と4倍体が存在することが知られていました。この4倍体は、韓国から記載された2倍体のオオゲジゲジシダP. koreana(日本にも分布)と、今回記載された九州の鹿児島から台湾に分布する2倍体のホウライゲジゲジシダP. taiwanianaの異質4倍体である事を明らかにしました。4倍体はP. decursivepinnataという学名になります。和名はコゲジゲジシダとしました。

Fujiwara T, Ogiso J, Ishii S, Togo K, Nakato N, Serizawa S, Chao Y-S, Im H-T, Ebihara A, Watano Y. (2021) Species Delimitation in the Phegopteris decursivepinnata Polyploid Species Complex (Thelypteridaceae). Acta Phytotaxonomica et Gewobitanica 72(3): 205-226.


ほ乳類培養細胞を用いた細胞外タンパク質のリソソーム分解測定法の確立(富張彩佳さん、千葉桃果さん、松浦教授、板倉准教授)

細胞外異常タンパク質を細胞がエンドサイトーシスによって取込み分解することで血液内などのタンパク質品質管理システムが重要な役割を担っている。しかし細胞外のタンパク質分解量を測定する方法は乏しい。2種類の蛍光タンパク質を組み合わせて、細胞外のタンパク質が細胞内のリソソームで分解される総量を定量解析する詳細な方法を発表した。

Tomihari A, Chiba M, Matsuura A, Itakura E. (2021) Protocol for quantification of the lysosomal degradation of extracellular proteins into mammalian cells. Star protocols, 2(4):100975


不良ミトコンドリアを色で見つけるセンサーを開発(上杉里瑛さん、石井俊輔さん、松浦彰教授、板倉准教授)

板倉英祐准教授らの研究グループは、パーキンソン病注や癌の一因とされている不良ミトコンドリアを蛍光タンパク質によって可視化する「不良ミトコンドリアセンサー “Mito-Pain”」を開発しました。Mito-Painを用いた解析と、ミトコンドリアにダメージを与えうる化合物のスクリーニングとを組み合わせることで、パーキンソン病の原因遺伝子のはたらきについて、これまで知られていた機能の他に、ミトコンドリアストレスの種類に応じて違うはたらき方をすることが明らかになりました。

Rie Uesugi, Shunsuke Ishii, Akira Matsuura, Eisuke Itakura (2021) Labeling and Measuring Stressed Mitochondria Using a PINK1-Based Ratiometric Fluorescent Sensor. Journal of Biological Chemistry


傷ついたRNA前駆体がDNA合成の基質として取り込まれる仕組みを解明、Nature Communications誌に掲載(佐々助教)

DNA合成酵素がゲノムDNAを複製する過程で、RNA前駆体が基質として取り込まれてしまうことがあります。千葉大学と米国NIEHS/NIHの共同研究チームは、ヒトのDNA合成酵素Pol μ(ミュー)が、酸化され傷ついたRNA前駆体を効率的にDNA鎖に取り込むことを突き止め、その酵素反応を原子レベルで可視化することに成功しました。この様な異常な基質の取り込みが生体に及ぼす影響は未だ謎に包まれており、千葉大学生物学科では引き続き解明に向けて研究を進めています。

Jamsen, J.A., Sassa, A., Perera, L., Shock, D.D., Beard, W.A., and Wilson, S.H. (2021). Structural basis for proficient oxidized ribonucleotide insertion in double strand break repair. Nature Communications, 12: 5055.


ミトコンドリアが集団内の個性を生み出すことを発見(上野尚久さん、高橋准教授)

集団内の活動性・攻撃性・積極性といった行動多様性(個性)は、生態・進化的動態に大きな影響を与えるとして大きな注目を集めていますが、行動多様性に寄与する遺伝的基盤は十分に検証されていません。なぜなら、核ゲノムに大きな関心が寄せられている一方で、呼吸や代謝に関わる遺伝子が数多く含まれるミトコンドリアゲノムが無視されていたからです。私たちは、野外から採集して確立したオオショウジョウバエ系統を用いて、集団内のミトコンドリアゲノムが本種の活動性に与える影響を検証しました。野外において、2つのミトコンドリアハプログループが共存しており、そのグループ間で幼虫と成虫の各成長段階における活動性に差が認められました。本研究の成果は、核ゲノムのみならずミトコンドリアゲノムの遺伝基盤を含めて、動物の行動多様性を検証する必要があることを示唆しています。

Ueno and Takahashi (2021) Mitochondrial polymorphism shapes intrapopulation behavioural variation in wild Drosophila. Biology Letters, https://doi.org/10.1098/rsbl.2021.0194


DNA修復欠損ヒト細胞株を用いた発がん性物質のリスク評価法を発表(佐々助教)

発がん性が疑われる化学物質の多くは,生体への曝露によって細胞のゲノムDNAを傷つけ突然変異を誘発します。その様な性質(変異原性)を調べるために細菌や培養細胞による安全性試験が定められていますが,既存の方法では作用機序までを正確に評価できません。本研究では,DNA修復経路の“塩基除去修復”と“ヌクレオチド除去修復”を欠損したヒト細胞株を利用して,既存の方法で結論付けられなかった化学物質の変異原性とそのメカニズムを特異的に評価することを可能にしました。この様な生物学とレギュラトリーサイエンス融合に基づいた技術は,化学物質の安全性評価からゲノム制御の仕組みの解明まで,科学の領域を超えて広く応用可能です。

Sassa, A., Fukuda, T., Ukai, A., Nakamura, M., Sato, R., Fujiwara, S., Hirota, K., Takeda, S., Sugiyama, KI., Honma, M., and Yasui, M. (2021). Follow-up genotoxicity assessment of Ames-positive/equivocal chemicals using the improved thymidine kinase gene mutation assay in DNA repair-deficient human TK6 cells. Mutagenesis, geab025.


甲状腺での遺伝子発現制御機構がオタマボヤの内柱まで遡れることを発見 (中西梨奈さん、小笠原准教授)

脊椎動物の甲状腺は甲状腺ホルモンを合成する器官で、ヨード代謝活性を持ちます。無脊椎脊索動物には甲状腺はありませんが、内柱と呼ばれる器官の背側にはヨード代謝活性を持つ領域があります。また、内柱の腹側には懸濁物摂食に関与する粘液タンパク質を分泌する領域があります。内柱の甲状腺関連機能と分泌機能を担う遺伝子群の研究は、これまで数多く行われてきましたが、これらの内柱の機能領域の形成やその分子的背景はよくわかっていませんでした。そこで本研究では、千葉大学、鹿児島大学(小沼研究室)、筑波大学(笹倉研究室)との共同で、甲状腺関連転写因子(Nkx2-1, FoxE)の遺伝子ノックダウンを尾索類オタマボヤで行い、内柱の機能領域の形成とその分子的背景を探りました。その結果、Nkx2-1とFoxEが内柱背側の甲状腺関連領域の形成と甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)遺伝子の発現に関与しており、甲状腺での遺伝子発現制御機構の一部がオタマボヤまで遡れることがわかりました。一方、内柱腹側の分泌領域の形成と粘液関連のvWF様(vWFL)遺伝子の発現には、Nkx2-1が関与していました。これらの研究結果は、Nkx2-1を基盤とする遺伝子発現制御機構が甲状腺と内柱で共有されていることを示す初めての知見となります。

Takeshi A. Onuma†, Rina Nakanishi, Yasunori Sasakura, Michio Ogasawara† (2021) Nkx2-1 and FoxE regionalize glandular (mucus-producing) and thyroid-equivalent traits in the endostyle of the chordate Oikopleura dioica. Dev. Biol. 477: 219–231 (†Corresponding authors)


性決定遺伝子がメスの体色をオス化させることを発見(高橋助教)

トンボの色彩は非常に多様です。種間でも色や模様がさまざまですが、種内でも同様です。アオモンイトトンボのメスは、同種のメスでありながら異なった2つの色彩パターンをもつ個体がいます。一方は、オスとは異なる茶色い体色のメスで、もう一方は、オスと同様に青緑色の体色のメスです。このような色彩は、性決定に関与する転写因子であるdoublesex遺伝子によって制御されている可能性が指摘されてきましたが、それを裏付ける証拠はありませんでした。高橋助教らの研究グループは、高橋迪彦博士(現 京都大学)らとともに、RNA干渉(RNAi)を用いて、doublesex遺伝子の複数のアイソフォームのうち、短いアイソフォームの発現が本種の色彩2型の制御に関わることを明らかにしました。これらの成果は、Biology Letters誌で発表されました。

Takahashi, M., G. Okude, R. Futahashi, Y. Takahashi and M. Kawata (2021) The effect of the doublesex gene in body colour masculinization of the damselfly Ischnura senegalensis. Biology Letters, in press


DNAポリメラーゼが基質を“ミスペアリング”する仕組みを原子レベルで可視化、Nature Communications誌に掲載(佐々助教)

DNA合成は生命活動の根幹とも言える酵素反応です。千葉大学と米国NIEHS/NIHの共同研究グループは、DNA二本鎖切断修復の際に働くDNAポリメラーゼμに着目し、酵素がDNA合成の際に誤った基質を取り込むメカニズムに着目しました。酵素反応速度論的解析ならびにtime-lapse crystallography技術を用いて酵素活性中心の構造変化をリアルタイムで追跡し、DNA合成反応を原子レベルで可視化することで酵素反応の仕組みを紐解きました。

Jamsen, J.A., Sassa, A., Shock, D.D., Beard, W.A., and Wilson, S.H. (2021). Watching a Double Strand Break Repair Polymerase Insert a Pro-Mutagenic Oxidized Nucleotide. Nature Communications, 12: 2059.


ヒト損傷乗り越えDNAポリメラーゼζの機能に関する論文がDNA Repair誌に掲載(佐々助教)

ゲノムDNAの複製を担う酵素のうち、ヒトDNAポリメラーゼζ(Polζ)は複製忠実度が低く、DNA損傷を乗り越えてDNA合成を行う活性を持ちます。本研究では、アミノ酸置換したPolζ改変体を利用して、ヒト細胞内で生じる突然変異を指標にPolζがDNA合成を行う領域をマッピングし、細胞内におけるPolζの機能に迫りました。その結果、Polζは鋳型DNA上に形成した損傷を乗り越えた後、さらに30塩基近くDNA鎖伸長を続けることで塩基置換を連続的に形成させる現象が捉えられました。このような誤りがちなDNAポリメラーゼは、損傷に対してゲノムを防御する因子である一方で、突然変異を誘発する「諸刃の剣」となります。

†Suzuki, T., †Sassa, A., Grúz, P., Gupta, R.C., Johnson, F., Adachi, N., and Nohmi, T. (2021). Error-prone bypass patch by a low-fidelity variant of DNA polymerase zeta in human cells. DNA Repair, 100: 103052.
(†equally contributed)


シダ植物ヒメオニヤブソテツにおける自殖の進化は、最終氷期における集団のボトルネックを伴うことを発見(今井亮介さん、綿野教授)

オニヤブソテツの二倍体有性生殖型には、配偶体の性表現(雄性と雌性の生殖器の形成のパターン)に多型が知られています。本研究ではゲノムワイドSNPsを用いて、混合交配型(中間的な自殖率を示す)の北方亜種であるヒメオニヤブソテツは、他殖性の南方亜種であるムニンオニヤブソテツから派生して生じたことを示しました。またヒメオニヤブソテツでは、最終氷期に明確なボトルネックを経験した事が分かりました(右図b)。これらの事から、最終氷期におけるボトルネックと氷期後の北方への分布の拡大が、二亜種間の分化と北方亜種での自殖の進化を促したと議論しました。自殖と集団のボトルネックの相関がシダ植物で示された最初の事例となります。

Imai R, Tsuda Y, Ebihara A, Matsumoto S, Tezuka A, Nagano AJ, Ootsuki R and Watano Y. (2021) Mating system evolution and genetic structure of diploid sexual populations of Cyrtomium falcatum in Japan. Scientific Reports, 11: 3124.


DNAに取り込まれたリボヌクレオチドがゲノムを不安定化するメカニズムを提唱(竹石 歩奈さん、古樫 浩之さん、小田切 瑞基さん、浦教授、佐々助教)

生体内ではゲノムDNAの複製中に、DNA複製酵素によってRNA前駆体(リボヌクレオチド)が基質として取り込まれることがあります。ヒトで一部のがんや炎症性神経疾患患者の細胞ではそれらを除去修復する酵素に異常が起きており、ゲノムにリボヌクレオチドの蓄積がみられます。この様なゲノム上の「異物」の蓄積が、哺乳類細胞でいかなる分子機構を介してゲノム不安定化を引き起こすのかはよく分かっていません。本研究では、DNAに取り込まれたリボヌクレオチドがDNA配列を書き換えてしまう「突然変異」を誘発するメカニズムを紐解きました。細胞内で正常に除去されなかったリボヌクレオチドは、チロシルDNAホスホジエステラーゼという修復酵素を介した「誤りがちな修復経路」が働き、その結果として突然変異形成が促進されます。正常なDNA修復機構が働かない場合、この様な誤りがちな経路を介してゲノム恒常性が損なわれ、細胞のがん化や疾患につながると考えられます。

Takeishi, A., Kogashi, H., Odagiri, M., Sasanuma, H., Takeda, S., Yasui, M., Honma, M., Suzuki, T., Kamiya, H., Sugasawa, K., Ura, K., Sassa, A. (2020). Tyrosyl-DNA phosphodiesterases are involved in mutagenic events at a ribonucleotide embedded into DNA in human cells. PLoS One, 15 (12): e0244790.


アゲハチョウにおける解毒酵素CYP6Bの多様化、選択パターンと食草プロファイルの対応(佐藤 愛さん、岡村 悠さん、村上教授)

植食性昆虫はホストとなる植物のいろいろな防御機構に対抗して進化しています。ミカンやセリ類を食草とするアゲハチョウ (Papilio) では、食草に含まれるフラノクマリン(furanocoumarin)をCYP6B遺伝子ファミリーにより解毒していることが知られています。各個体は、多様なCYP6B遺伝子を保有しており、食草に含まれる様々なタイプのフラノクマリンに対応していると考えられています。この研究では、日本産のアゲハチョウ9種(8種はミカン食、1種はセリ食)について、CYP6Bの多様化と選択のパターンと、食草選択様式の関係を解析しました。食草のフラノクマリン組成も解析し、食草選択の機構の解明を目指しました。さらに、トランスクリプトームデータを用いて各CYP6B遺伝子の系統関係も推定しました。各アゲハ種の食草選択パターンと、各食草のフラノクマリンのプロファイルには対応関係が見られました。しかしながら、CYP6Bの保有パターンとの関係はみられませんでした。一方、CYP6B遺伝子には正の選択が働いていることが示されました。これらの結果から、今回の対象種に見られたCYP6Bの多様性は、祖先種の段階で既に獲得されており、食草の化学防御に併せて遺伝子の損失が見られることが示唆されました。これらの過程がアゲハ類の食草変化を通じて、複雑なCYP6Bプロファイルの変化を生じたと考えられる。

Sato A, Okamura Y, Murakami M. (2020) Diversification and selection pattern of CYP6B genes in Japanese Papilio butterflies and their association with host plant spectra. PeerJ 8:e10625


野外のショウジョウバエにおいて活動リズムに顕著な種内変異が存在することを発見(上野尚久さん、高橋助教)

活動性の遺伝的変異は、個体間の相互作用に影響を与え、結果的に個体群レベルの生態的な動態にさまざまな影響を与えると考えられています。しかし、野外の集団内に活動性の遺伝的変異がどれほど存在しているのかは、よくわかっていませんでした。そこで、私たちは、千葉県内の1つの野外集団から確立したオオショウジョウバエの複数の系統を用いて、活動量と活動リズムの遺伝的変異の程度を調べました。幼虫でも成虫でも、系統間で活動量に大きな差異があることがわかりました。また、成虫においては、明るい時間帯に活動量が高まる系統と暗い時間帯に活動量が高まる系統が見つかり、活動リズムについても系統間で大きな差異がありました。

Ueno, T. and Y. Takahashi (2020) Intra-population genetic variation in the level and rhythm of daily activity in Drosophila immigrans. Ecology and Evolution, in press.


M-Ras は Muscle (筋肉)-Ras,Moderate (穏やか)-Ras,Mineral (ミネラル)-Ras,Migration (遊走)-Ras,そして Many More (もっといろんな機能)-Ras である(遠藤教授)

私たちが発見した M-Ras は,Ras ファミリー低分子量 G 蛋白質の一つであり,Ras ファミリーの中では単独でサブファミリーを構成している.N/H/K-Ras は Raf に強く結合して,ERK 経路を強く一時的に活性化する.一方,M-Ras は Raf に弱く結合して,ERK 経路を穏やかにではあるが持続的に活性化して,神経細胞分化をもたらす.M-Ras はさらに,Raf を脱リン酸化して ERK 経路を活性化する PP1 複合体 (Shoc2–PP1c) や RapGEF などの特異的なエフェクター蛋白質にも作用する.M-Ras は脳に高く発現しており,神経形成における樹状突起の形成に働いている.M-Ras はまた骨にも高く発現しており,石灰化(ミネラル化)を伴う骨芽細胞分化と骨芽細胞への分化転換にも働いている.M-Ras はさらに,PP1 複合体による ERK 経路の活性化を介して,上皮・間葉転換による細胞遊走を引き起こす.RAS 病 (RASopathy) の一つである Noonan 症候群では,MRAS 遺伝子に活性化突然変異がみられる.またいくつかのがんでは,MRAS 遺伝子の増幅が生じている.さらに MRAS 遺伝子の SNPs と心筋梗塞などの冠動脈疾患,肥満,脂質異常症との関連が明らかになっている.このように M-Ras は多様な細胞機能,生理的機能,病理的現象にかかわっている.

Endo, T. (2020) M-Ras is Muscle-Ras, Moderate-Ras, Mineral-Ras, Migration-Ras, and Many More-Ras. Exp. Cell Res. 397 (1): 112342.


酸化DNA損傷の修復メカニズムに関する論文(Graphical Review)がDNA Repair誌に掲載されました(佐々助教、小田切瑞基さん)

生物の設計図であるゲノムDNAは, 生体内の様々な過程で発生する活性酸素によって常に損傷のリスクに曝されています。酸化され傷ついたDNAは, 複製される際に塩基配列の誤りやDNA鎖の切断を引き起こし, その蓄積によって細胞の死やがん化が引き起こされます。生体にはその様なDNA損傷に立ち向かうための多彩なDNA修復経路が存在し, それぞれの経路が互いに協調しながら生体の恒常性を維持しています。論文では, 最新の知見を交えながら酸化DNA損傷に対する修復の仕組みを解説しています。

Sassa, A. and Odagiri, M. (2020). Understanding the sequence and structural context effects in oxidative DNA damage repair. DNA Repair, 93: 102906.


塩ストレスに対する遺伝子発現の変化が汽水適応を引き起こすことを発見(横溝 匠さん、高橋助教)

河川において、同一種の淡水域集団と汽水域集団の形質を比較することで、汽水適応の初期のプロセスを理解できる可能性があります。私たちは、河川性巻貝のチリメンカワニナの淡水域と汽水域の個体群における塩水応答の差異を調べました。汽水域の個体は捕獲直後であれば高い塩耐性をもち、淡水域の個体でも飼育環境によって塩耐性が可塑的に高まることが示唆されました。また、遺伝子発現解析の結果、汽水域の個体はキチン代謝など淡水域の個体と異なる生理経路を活性化させて塩水に応答していることがわかりました。これらの結果は、表現型可塑性によって塩分に対する生理的応答が変化することで、汽水適応が誘導されることを示唆しています。

Yokomizo, T. and Y. Takahashi (2020) Changes in transcriptomic response to salinity stress induce the brackish water adaptation in a freshwater snail. Scientific Reports, 10: 16049.


同じ親種の組み合わせだが独立起源の異質4倍体シダ植物集団が、種分化の初期段階にある例を発見(藤原泰央さん、綿野教授)

クロノキシノブは、ノキシノブ2倍体とナガオノキシノブ間の異質4倍体で、最近記載されました(Fujiwara et al. (2018) J. Plant Res. 131: 945–959)。今回の論文では、このクロノキシノブの東西集団間に大きな遺伝的分化があることを示しました。この地理的に明瞭な遺伝的分化は、東日本と西日本において独立に異質倍数体化が起きたことが原因だと考えられます。東西集団間の自然雑種には、胞子稔性の部分的低下が観察されました。これは、異所的に独立に生じた異質倍数体集団が、急速に交配後隔離を発達させつつある興味深い事例だと考えられます。

Fujiwara T, Watano Y (2020) Independent allopatric polyploidizations shaped the geographical structure and initial stage of reproductive isolation in an allotetraploid fern, Lepisorus nigripes (Polypodiaceae). PLoS ONE 15(5): e0233095.


新種ナンカイヌリトラノオの記載論文が発行されました(綿野教授)

新種Asplenium serratipinnae T. Fujiw. & Watano(和名 ナンカイヌリトラノオ)の記載論文が発行されました。表紙にも採用されました。

Fujiwara, T., J. Ogiso, S. Matsumoto, Y. Watano (2020) Asplenium serratipinnae (Aspleniaceae: Polypodiales), a new allotetraploid species in the A. normale complex. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica, 71: 13-21.


血液内のゴミ掃除システムを発見(板倉助教・千葉桃果さん・村田教授・松浦教授)

血液中など細胞外に生じた異常タンパク質を細胞が自ら取り込み分解・除去する仕組みを発見しました。細胞の中の異常タンパク質分解の機能はオートファジーと呼ばれ、近年研究が進んでいますが、細胞の外の異常タンパク質に対しても細胞が働きかけられることが今回初めて実証されました。異常タンパク質の中には、アルツハイマー病の発症を引き起こすアミロイドβが含まれており、この仕組みによってアミロイドβの分解も促進されることから、アルツハイマー病治療への将来的な貢献が期待されます。

Eisuke Itakura*, Momoka Chiba, Takeshi Murata, Akira Matsuura (2020) Heparan sulfate is a clearance receptor for aberrant extracellular proteins. Journal of Cell Biology, 219 (3) e201911126


Ras–ERK 経路のドミナントネガティブ抑制因子:Raf の選択的スプライシングにより生ずる DA-Raf とその関連蛋白質(遠藤教授)

Ras によって活性化される ERK 経路 (Raf–MEK–ERK リン酸化カスケード) は,細胞増殖,細胞分化,発生過程の形態形成,成体におけるホメオスタシスなど,さまざまな細胞機能や生理学的機能を制御している.突然変異によりこの経路が異常に活性化すると,がんや RAS 病 (RASopathy) などの疾患につながる.Ras–ERK 経路を抑制する制御蛋白質がいくつか存在する.これらの蛋白質は Ras–ERK 経路の特定の箇所に作用して,それぞれ独自の細胞機能や生理学的機能をあらわす.これらの制御蛋白質の中でも,私たちが発見した DA-Raf は Raf 蛋白質 (A-Raf, B-Raf, C-Raf) の一つである A-Raf のスプライシングアイソフォームであり,Ras 結合ドメインをもっているがキナーゼドメインを欠損している.そのため DA-Raf は Ras–ERK 経路に対してドミナントネガティブの様式で作用する抑制因子として機能する.これにより DA-Raf はアポトーシス,骨格筋細胞分化,肺胞形成などを誘導し,またがん抑制蛋白質として働く.DA-Raf の発見後に,DA-Raf と同様にキナーゼドメインを欠損した Raf 蛋白質のスプライシングアイソフォームがいくつか報告された.これらの蛋白質群は,選択的スプライシングにより,全長をもつ蛋白質に対して拮抗作用をもつ蛋白質が生ずるという概念の代表的な例である.

Endo, T. (2020) Dominant-negative antagonists of the Ras–ERK pathway: DA-Raf and its related proteins generated by alternative splicing of Raf. Exp. Cell Res. 387 (2): 111775 (1–12).


シロチョウ種間の食草利用の差異は食草の化学組成と関連することを発見(岡村 悠さん、村上教授)

シロチョウは主にアブラナ科草本を食草として用いますが、種によって好きな食草が異なります。アブラナ科草本はグルコシノレートと呼ばれる化学防御をもち、この組成が植物種ごとに異なることが知られていました。私たちは、シロチョウ種間の食草選択の違いが、食草の物理的な防御形質(葉の硬さ等)よりもグルコシノレート組成の違いと対応している事を発見し、Journal of Insect Science誌に発表しました。

Yu Okamura, Natsumi Tsuzuki, Shiori Kuroda, Ai Sato, Yuji Sawada, Masami Yokota Hirai, and Masashi Murakami (2019) Interspecific differences in the larval performance of Pieris butterflies (Lepidoptera: Pieridae) are associated with differences in the glucosinolate profiles of host plants. Journal of Insect Science, 19:1–9.


シロチョウが二つの食草解毒遺伝子を食草に応じて使い分けていることを発見(岡村 悠さん、村上教授)

Scientific Reports誌において、シロチョウの幼虫がどのようにして食草に含まれる多様な化学防御物質に適応しているのかを示した論文を出版しました。シロチョウの幼虫は、グルコシノレートと呼ばれる化学防御を含んだアブラナ科草本を食草として利用します。しかしながら、このグルコシノレートは化学的に非常に多様であり、植物によってその組成が様々です。私たちは、シロチョウの幼虫が、2種類のグルコシノレート解毒関連遺伝子を食草のグルコシノレート組成に応じて使い分けることで、より幅広い食草に適応していることを発見しました。

Yu Okamura, Ai Sato, Natsumi Tsuzuki, Yuji Sawada, Masami Yokota Hirai, Hanna Heidel-Fischer, Michael Reichelt, Masashi Murakami & Heiko Vogel (2019) Differential regulation of host plant adaptive genes in Pieris butterflies exposed to a range of glucosinolate profiles in their host plants. Scientific Reports, 9:7256.


シロチョウの持つ2つの食草適応遺伝子の食草転換に伴った進化動態を解明(岡村 悠さん、村上教授)

日本に生息するシロチョウには野生のアブラナ科草本のみを利用するグループと、キャベツ等の野菜のアブラナ科草本を頻繁に利用するグループが存在します。これまでの研究で,シロチョウの幼虫は食草に含まれる多様なグルコシノレートと呼ばれる化学防御を、 NSP と MA というふたつの姉妹遺伝子を用いて解毒する事が示唆されていました。私たちは、食草の選好性が違うこの2グループのシロチョウの NSP と MA を比較し、食草選好性の違いにMAよりも NSP の進化が対応している事を発見しました。これは遺伝子重複後、 NSP は食草によって異なるグルコシノレートに応答してシロチョウ種間で分化する一方で、 MA は食草に幅広く含まれるグルコシノレートに対応するため、種間で機能がより保存されてきた事を示唆します。この結果はMolecular Ecology誌に発表されます。

Yu Okamura, Ai Sato, Natsumi Tsuzuki, Masashi Murakami, Hanna Heidel-Fischer, Heiko Vogel (in press) Molecular signatures of selection associated with host-plant differences in Pieris butterflies. Molecular Ecology.


DNAに取り込まれたリボヌクレオチドの除去修復を担う新たなメカニズムを解明(佐々助教・竹石歩奈さん・原田佳歩さん・鈴木慈さん・浦教授)

細胞のゲノムDNAが複製される際に、DNAポリメラーゼによってしばしば「RNA前駆体」(リボヌクレオチド)が基質として取り込まれることがあります。DNAに取り込まれたリボヌクレオチドが除去されずに蓄積すると、細胞に様々な異常が引き起こされます。本研究では、ヒト細胞においてリボヌクレオチドの除去修復に関わる新たなメカニズムを明らかにしました。DNAに取り込まれたリボヌクレオチドはRNase H2という酵素によって除去されますが、RNase H2がうまく取り除けないような基質に対しては「ヌクレオチド除去修復」と呼ばれる機構が働くことが分かりました。さらに、DNA中のリボヌクレオチドが修復されないままDNA複製の鋳型となった場合には、「損傷乗り越えDNAポリメラーゼ」がDNA合成をスムーズに行うことでゲノム不安定化を抑制している可能性を見出しました。細胞には、この様にゲノムを安定に保つための機構が幾重にも備わっていると考えられます。

Sassa, A., Tada, H., Takeishi, A., Harada, K., Suzuki, M., Tsuda, M., Sasanuma, H., Takeda, S., Sugasawa, K., Yasui, M., Honma, M., Ura, K. (2019). Processing of a single ribonucleotide embedded into DNA by human nucleotide excision repair and DNA polymerase η. Scientific Reports, 9: 13910.


ゲノム編集ヒト細胞を用いて環境中化学物質の毒性を評価する方法を開発(佐々助教)

私たちの細胞のゲノムDNAは、大気汚染物質など身のまわりに存在する多種多様な化学物質によって常に損傷の危険にさらされています。その様な化学物質のリスクを正確に評価することは、社会に大きな貢献を果たすものと考えられます。私たちは、化学物質の安全性を評価する “遺伝毒性試験” に使用されるヒトリンパ芽球細胞TK6において、ゲノム編集技術を用いてDNA修復遺伝子を改変し、様々な環境中化学物質の毒性を特異的に検出することを可能にしました。この様なゲノム編集ヒト細胞株を安全性試験に利用することで、適切な化学物質リスク評価の推進が期待できます。

Sassa, A., Fukuda, T., Ukai, A., Nakamura, A., Takabe, M., Takamura-Enya, T., Honma, M., Yasui, M. (2019). Comparative study of cytotoxic effects induced by environmental genotoxins using XPC- and CSB-deficient human lymphoblastoid TK6 cells. Genes and Environment, 41: 15.


小笠原准教授らの研究グループが「原索動物の消化器系の分子進化」に関する総説を出版

Cell and Tissue Research誌の特集号「Structure, Development and Evolution of the Digestive System(消化器系の構造,発生,および進化)」において,「原索動物の消化器系の分子進化」に関する総説を出版しました.これは近年,研究グループがCell and Tissue Research誌で出版してきた一連の消化器系研究:FABP関連(Orito et al. 2015),Hox, ParaHox関連(Nakayama et al. 2016),消化酵素関連(Nakayama and Ogasawara 2017),腸管免疫関連(Hayashibe et al. 2017)をうけて招待されたものです.消化器系とは,消化管とその付属器官からなる器官系のことであり,従属栄養生物である動物が体内で栄養を摂取するために必要不可欠なものです.この消化器系の機能や構造は,動物群の系統や食性によってかなり異なりますが,我々ヒトを含む脊椎動物やほ乳類を中心に研究が行われてきました.しかし,この脊椎動物の消化器系が動物の進化にともなってどのように成立したのかを理解するためには,脊椎動物より少し原始的な特徴をもつ原索動物(尾索類と頭索類)の消化器系を理解することが重要です.そこで総説では,脊索動物(原索動物と脊索動物)における消化管進化の理解に向けて,解剖・形態学的,生理学的,ゲノム的,遺伝子発現的,発生学的,関連研究分野などの多面的な研究知見の現状をまとめました.

Nakayama, S., Sekiguchi, T., and Ogasawara, M. Molecular and evolutionary aspects of the protochordate digestive system. Cell and Tissue Research. 377(3):309-320.


「見た目の多様性」が種の栄枯盛衰に関係することを発見(高橋助教)

生物には、見た目や行動、性格などのさまざまな側面に種内の多様性があります。このような多様性が集団の増殖率や安定性を高めたりすることは知られていました。しかし、各生物の繁栄や衰退に与える影響は十分にわかっていませんでした。高橋助教らは、種内の色彩(体色や翅色)の多様性が種のグローバルなスケールでの分布範囲や絶滅リスクに与える影響を昆虫や脊椎動物を用いた種間比較法により検証しました。その結果、集団内での色彩多様性が種の分布範囲を拡大させたり、絶滅リスクを低めたりする可能性があることが明らかになりました。

Takahashi, Y. and S. Noriyuki (2019) Color polymorphism influences species’ range and extinction risk. Biology Letters (in press)


マメ科植物と共生する根粒菌の多様性を解明(番場大大学院生・土松准教授・綿野教授)

土松准教授,綿野教授,番場大大学院生らの研究グループは,自然環境下でマメ科植物ミヤコグサと共生する根粒菌のDNAを解析したところ,ミヤコグサは多様な種類の根粒菌と共生し,かつこれらの根粒菌は共生に必要な「鍵」遺伝子を遺伝子水平伝播により獲得した可能性があることがわかりました。自然環境下の植物について多数地域の共生根粒菌を網羅的に調べた研究例は世界的にも数少なく,今回見つかった多様な菌系統は,マメ科農作物の生育を促す根粒菌を作出するための重要な手がかりとなります。本研究成果は,アメリカ植物病理学会が出版する学術雑誌Molecular Plant-Microbe Interactions誌に掲載されました。

Masaru Bamba, Seishiro Aoki, Tadashi Kajita, Hiroaki Setoguchi, Yasuyuki Watano, Shusei Sato, and Takashi Tsuchimatsu. Exploring genetic diversity and signatures of horizontal gene transfer in nodule bacteria associated with Lotus japonicus in natural environments. Molecular Plant-Microbe Interactions (in press)


同種と異種を区別する分子を発見,Nature Plants 誌に掲載(土松准教授)

土松准教授らの研究グループは,東京大学大学院農学生命科学研究科の藤井壮太助教,高山誠司教授らとともに,植物(シロイヌナズナ)が同種の花粉と異種の花粉を識別し,雌しべ上で異種の花粉を選択的に排除するメカニズムを持つことを明らかにし,研究成果をNature Plants 誌で発表しました.研究チームは,ゲノムワイド関連解析と呼ばれる,個体間の形質の違いと DNA配列の違いとの関連を全ゲノムに渡って検出する解析手法を用いることで,異種の花粉の排除に必須な遺伝子を発見し Stigmatic Privacy 1SPRI1)と命名しました. 本研究で見いだした SPRI1 タンパク質を標的とすることで,「種の壁を自在に制御する技術」がつくられ,収量,品質,機能性などが向上した作物の開発が加速することが期待されます.

Fujii, S., Tsuchimatsu, T., Kimura, Y., Ishida, S., Tangpranomkorn, S., Shimosato-Asano, H., Iwano, M., Furukawa, S., Itoyama, W., Wada, Y., Shimizu, K.K., and Takayama, S. (in press) Identification of a stigmatic gene functions in inter-species incompatibility in the Brassicaceae. Nature Plants doi:10.1038/s41477-019-0444-6


テロメアが短いだけでは細胞周期は停止しない?前細胞老化段階の細胞を同定(松浦教授、板倉助教)

真核細胞のゲノムDNAのような直鎖状DNAは、DNAポリメラーゼによる複製の際に最末端までの完全なコピーができないという問題を潜在的に抱えています(末端複製問題)。そのため、染色体DNAの末端(テロメア)は細胞が分裂を繰り返すごとに徐々に短縮していき、これがヒト正常細胞の分裂回数に限界があること(細胞老化)の原因であることが示されています。短くなったテロメアは、DNAに生じた傷を検知するDNA損傷チェックポイントシステムにより認識され、このシステムの活性化が細胞老化過程で細胞分裂の停止をもたらすと考えられてきました。私たちのグループは、DNA損傷チェックポイントの活性化状態を1細胞レベルで検出できるレポーターを使って、最終的な老化に至るまでの過程で、DNA損傷チェックポイントが活性化しているものの細胞分裂が依然として可能な時期があることを見出しました。その時期には、細胞周期の遅延が生じ、老化細胞に特徴的な細胞体積の増大がおきます。テロメアが閾値以下に短縮することは細胞老化への引き金としては重要ですが、老化細胞に特徴的な細胞形質の変化はテロメアの短さとは直接関係がなく、前老化状態で細胞周期が回転することによる結果のようです。

Miura, A. et al. (2019) Reversible DNA damage checkpoint activation at the presenescent stage in telomerase-deficient cells of Saccharomyces cerevisiae. Genes Cells, DOI: 10.1111/gtc.12706
Miura, A. & Matsuura, A. (2019) Phosphatase-dependent fluctuations in DNA-damage checkpoint activation at partially defective telomeres. Biochem. Biophys. Res. Commun., DOI: 10.1016/j.bbrc.2019.06.030


DA-Raf は骨格筋細胞分化とアポトーシスの誘導因子である(高橋和也,板倉助教,高野助教,遠藤教授)

Ras によって活性化される ERK カスケード (Raf–MEK–ERK リン酸化カスケード) はさまざまな細胞現象や生体現象を制御しています.たとえば Ras–ERK カスケードは骨格筋細胞分化を阻害したり,アポトーシスを阻害するように働いています.私たちが発見した DA-Raf は,Raf の一つである A-Raf の遺伝子から選択的スプライシングにより生じ,Ras–ERK カスケードのドミナントネガティブ抑制因子として作用する蛋白質です.私たちは,DA-Raf がこの作用により次の 2 つの細胞機能をもっていることを明らかにしました.(1) DA-Raf は Ras–ERK カスケードによって抑制される筋特異的MyoD ファミリー転写因子の発現と活性化を通して,筋特異的遺伝子の発現と筋細胞融合をもたらし,骨格筋細胞分化を誘導する.(2) DA-Raf は Ras–ERK カスケードによって抑制されるアポトーシス誘導蛋白質 Bad を活性化して,アポトーシスを誘導する.

Takahashi, K., Itakura, E., Takano, K., and Endo, T. (2019) DA-Raf, a dominant-negative regulator of the Ras–ERK pathway, is essential for skeletal myocyte differentiation including myoblast fusion and apoptosis. Exp. Cell Res. 376: 168–180.

高橋助教らの研究グループが、「トンボにおける種内の色彩多様性を生み出す遺伝子」に関する論文を発表

Heredity誌においてアオモンイトトンボの色彩型間の遺伝子発現を比較した論文を出版しました。このトンボでは、雌雄で体色が異なることが一般的ですが、一部の雌では、雄にそっくりな体色になることが知られています。一般的な雌と雄に擬態した雌について遺伝子発現を網羅的に比較したところ、昆虫において性差の決定に非常に重要な役割を果たすdoublesex遺伝子の発現量が異なることがわかりました。

Takahashi, M., Y. Takahashi and M. Kawata (2019) Candidate genes associated with color morphs of female-limited polymorphisms of the damselfly Ischnura senegalensis, Heredity, 122: 81–92.

佐々助教らの研究グループが「リボヌクレオチドが引き起こすゲノム不安定化」に関する総説を出版

Genes and Environment誌において,「DNAに取り込まれたリボヌクレオチドが引き起こすゲノム不安定化」に関する総説を出版しました。DNAの複製は,DNAポリメラーゼがDNA前駆体を用いて行いますが,その過程でしばしばRNA前駆体(リボヌクレオチド)が基質として取り込まれます。それらが適切に除去されずゲノムDNAに蓄積すると,細胞に様々な異常が起こり,ヒトでは深刻な先天性奇形症候群の発症に関連すると言われています。本総説では,哺乳類細胞でリボヌクレオチドがどの様な経路でDNAに取り込まれ,またそれに対していかなる除去修復機構が備わっているのかについて最新の知見を解説しています。

Sassa, A., Yasui, M., and Honma, M. (2019). Current perspectives on mechanisms of ribonucleotide incorporation and processing in mammalian DNA, Genes and Environment. 41: 3.

土松准教授の研究グループが集団ゲノミクスに関する総説を出版

日本発生生物学会の英文誌 Development, Growth & Differentiation誌の「発生・生態・進化」特集号において,植物の集団ゲノミクスに関する総説を出版しました.集団ゲノミクスは,種内の多数の個体のゲノム情報に基づいて,過去の適応や種分化の歴史を推定したり,ゲノムワイド関連解析(GWAS)等を用いて自然変異の原因遺伝子を特定したりするアプローチです.総説では,最近とくに研究が進んでいるシロイヌナズナやその近縁種,イネやトウモロコシ,タルウマゴヤシの研究例をまとめています.また,Glossary Box や図を用いて研究手法に関する解説も行っており,集団ゲノミクスに馴染みのない方にも分かりやすい総説になるよう心がけました.

Bamba, M., Kawaguchi, Y. W., and Tsuchimatsu, T. Plant adaptation and speciation studied by population genomic approaches. Development, Growth & Differentiation. 25 Nov 2018

ラパマイシン標的タンパク質が関わるシグナル伝達系において多様な下流経路を選択的に制御する機構を発見(松浦教授、板倉助教)

ラパマイシン標的タンパク質(TORタンパク質)を内包するTORC1複合体は、栄養やストレス等の外的環境変化に応答して、細胞内のタンパク質合成活性を多方面から制御するタンパク質キナーゼ複合体です。この系はTORC1の活性調節により下流の複数経路を一元管理していますが、ストレス環境においては下流経路のうちの特定の経路のみが遮断される現象が観察されていました。私たちのグループは、出芽酵母のTORC1とその下流で働くSch9が液胞膜上に存在することに着目し、液胞膜の状態変化によりSch9が液胞膜から遊離すること、そのようなSch9の局在制御を介してTORC1からSch9に向かう経路のみが特異的に調節されていることを発見しました(Takeda et al., Mol. Biol. Cell 2018)。このしくみは、酸化ストレス条件下でTORC1の下流経路のうちのSch9を介するシグナル伝達のみを抑制することに関わっています。これまで、哺乳類細胞を用いた研究により、TORC1によるリン酸化の基質となるタンパク質の間にリン酸化されやすさの違いがあり、そのような基質の質的差異によってTORC1の下流経路ごとの出力が調節されていることが示されていました(Substrate quality model)。その機構に加えて、基質の局在変化により出力を調節する機構が存在することが、本研究により明らかになりました(Substrate localization model; Takeda and Matsuura, Commun. Integr. Biol. 2018)。

自然界でも〝個性〟が重要! 「おっとり型」と「せかせか型」の共存が集団のパフォーマンスを高める(高橋助教)

生物の集団内の多様性(ダイバーシティー)が集団に対してどのような機能を果たすかはほとんど調べられていませんでした。モデル生物のキイロショウジョウバエには、遺伝子に支配された2つの個性(おっとり型、せかせか型)が共存することが知られています。本研究では、ショウジョウバエにおける集団内の行動の個性の多様さ(おっとり型とせかせか型の共存)が集団の生産性や安定性を高めることを発見しました。

Takahashi, Y., R. Tanaka, D. Yamamoto, S. Noriyuki, M. Kawata. (2018) Balanced genetic diversity improves population fitness. Proc. R. Soc. B, 285: 20172045.

ソテツ類Dioon属の系統地理学:新生代メキシコにおける分布拡大と多様化(綿野教授)

メキシコは新北区と新熱帯区の移行帯にあたり、生物地理学的に興味深い地域です。日本学術振興会特別研究員DC2のメキシコからの留学生であるホセ君は、メキシコに生育するソテツ類Dioon属の系統解析を行い、4つの主要クレードが認識でき、それぞれが異なる生物地理区に対応するという強い系統地理学的構造が存在する事を明らかにしました。分岐年代推定の結果と合わせて考察することで、Dioon属の分布拡大と多様化が、新熱帯北端の生物地理区の新生代における多様化に伴って生じたことが示されました。この研究成果をまとめた論文がAnnals of Botanyにおいて12/27に掲載されました。

José Said Gutiérrez-Ortega, María Magdalena Salinas-Rodríguez, José F Martínez, Francisco Molina-Freaner, Miguel Angel Pérez-Farrera, Andrew P Vovides, Yu Matsuki, Yoshihisa Suyama, Takeshi A Ohsawa, Yasuyuki Watano, Tadashi Kajita (2018) The phylogeography of the cycad genus Dioon (Zamiaceae) clarifies its Cenozoic expansion and diversification in the Mexican transition zone. Ann. Bot. 121:535-548

DA-Raf は Ras によるがん化に対してがん抑制蛋白質として働く(遠藤教授、高野助教)

ヒトのがんでは RAS 遺伝子,特に KRAS 遺伝子の活性化突然変異が高頻度でみられます.活性化突然変異をもつ Ras 蛋白質は恒常的に ERK カスケード (Raf–MEK–ERK リン酸化カスケード) を活性化して,細胞のがん化と腫瘍形成を引き起こします.私たちが発見した DA-Raf は,Raf の一つである A-Raf の遺伝子から選択的スプライシングにより生じ,Ras–ERK カスケードのドミナントネガティブ拮抗因子として作用する蛋白質です.この作用により,DA-Raf は活性化突然変異 K-Ras によって引き起こされるがん化を抑制しました.それに対し,ヒトの一塩基多型 (SNP) をもつ DA-Raf(R52Q),および肺がんでみられる突然変異をもつ DA-Raf(R52W) は,活性化 K-Ras による細胞のがん化とマウスにおける腫瘍形成を抑制しませんでした.また KRAS 遺伝子の活性化突然変異をもつヒト肺腺がん細胞株では,DA-Raf の発現が顕著に低下していました.したがって DA-Raf は K-Ras によって誘導されるがん化に対してがん抑制蛋白質として働いていると考えられます.

Kanno E, Kawasaki O, Takahashi K, Takano K, Endo T (2018) DA-Raf, a dominant-negative antagonist of the Ras–ERK pathway, is a putative tumor suppressor. Exp Cell Res. 362:111-120.

乾燥化が、ソテツ類Dioon属のメキシコにおける種多様化を促進した!(綿野教授)

気候変動としての乾燥化は、生物多様性にとっての脅威であると同時に、いくつかの分類群にとっては、ハビタットシフトを通じた種多様化の原動力であった可能性があります。日本学術振興会特別研究員DC2のメキシコからの留学生であるホセ君は、メキシコに生育するソテツ類Dioon属の系統解析を行い、種多様化と、半湿潤から半乾燥環境へのハビタットシフトが、中新世に起こった事を明らかにしました。これは、メキシコにおいて乾燥地が拡大した時期に一致します。彼はまた、乾燥適応に関連する形態的形質の進化についても詳細に記述を行いました。この研究成果をまとめた論文がAnnals of Botanyにおいて11/16に掲載されました。

José Said Gutiérrez-Ortega, Takashi Yamamoto, Andrew P Vovides, Miguel Angel Pérez-Farrera, José F Martínez, Francisco Molina-Freaner, Yasuyuki Watano, Tadashi Kajita (2018) Aridification as a driver of biodiversity: a case study for the cycad genus Dioon (Zamiaceae). Ann. Bot. 121: 47-60.

ヌリトラノオ異質四倍体が複数の隠蔽種を含むことを発見(綿野教授)

異質倍数体形成は、維管束植物の主要な種分化機構の一つです。日本学術振興会特別研究員DC1の藤原泰央君は、シダ植物のヌリトラノオを対象に、集団遺伝学、フラボノイド分析、系統解析など様々な手法を駆使して、この種の4倍体細胞型は、少なくとも三つの隠蔽種(形態的には区別されていなかったが、生殖的隔離を持つもの)に区別できることを示しました。これら隠蔽種は全て異質四倍体でしたが、同じ親の組み合わせの隠蔽種が含まれていました。独立の倍数化イベントが種分化につながる興味深い例の発見だといえます。この研究成果をまとめた論文がAmerican Journal of BotanyのAdvanced Accessにおいて9/7に掲載されました。

上に挙げた以外の最近の論文や特許

  • Takayama, K., Matsuda, K. and Abe, H. (2022) Formation of actin-cofilin rods by depletion forces. Biochem. Biophys. Res. Commun. 626, 200-204.
  • Kodera, N., Abe, H., Nguyen, P. D. N. and Ono, S. (2021) Native cyclase-associated protein and actin from Xenopus laevis oocytes form a unique 4:4 complex with a tripartite structure. J. Biol. Chem. 296.
  • Takahiro Nomura, Kimihide Hayakawa, Naruki Sato, Takashi Obinata (2022) Periodic Stretching of Cultured Myotubes Enhances Myofibril Assembly. Zoological Science, 39(4):320-329.
  • 特許 7118344 筋肉改質剤 https://ipforce.jp/patent-jp-P_B1-7118344