最新の研究成果


研究紹介

理学部生物学科および大学院融合理工学府の生物学コースの教員や学生が行なった最近の研究成果について、論文として発表された成果を中心に紹介します。



酸化DNA損傷の修復メカニズムに関する論文(Graphical Review)がDNA Repair誌に掲載されました(佐々助教、小田切瑞基さん)

生物の設計図であるゲノムDNAは, 生体内の様々な過程で発生する活性酸素によって常に損傷のリスクに曝されています。酸化され傷ついたDNAは, 複製される際に塩基配列の誤りやDNA鎖の切断を引き起こし, その蓄積によって細胞の死やがん化が引き起こされます。生体にはその様なDNA損傷に立ち向かうための多彩なDNA修復経路が存在し, それぞれの経路が互いに協調しながら生体の恒常性を維持しています。論文では, 最新の知見を交えながら酸化DNA損傷に対する修復の仕組みを解説しています。

Sassa, A. and Odagiri, M. (2020). Understanding the sequence and structural context effects in oxidative DNA damage repair. DNA Repair, 93: 102906.


塩ストレスに対する遺伝子発現の変化が汽水適応を引き起こすことを発見(横溝 匠さん、高橋助教)

河川において、同一種の淡水域集団と汽水域集団の形質を比較することで、汽水適応の初期のプロセスを理解できる可能性があります。私たちは、河川性巻貝のチリメンカワニナの淡水域と汽水域の個体群における塩水応答の差異を調べました。汽水域の個体は捕獲直後であれば高い塩耐性をもち、淡水域の個体でも飼育環境によって塩耐性が可塑的に高まることが示唆されました。また、遺伝子発現解析の結果、汽水域の個体はキチン代謝など淡水域の個体と異なる生理経路を活性化させて塩水に応答していることがわかりました。これらの結果は、表現型可塑性によって塩分に対する生理的応答が変化することで、汽水適応が誘導されることを示唆しています。

Yokomizo, T. and Y. Takahashi (2020) Changes in transcriptomic response to salinity stress induce the brackish water adaptation in a freshwater snail. Scientific Reports, 10: 16049.


同じ親種の組み合わせだが独立起源の異質4倍体シダ植物集団が、種分化の初期段階にある例を発見(藤原泰央さん、綿野教授)

クロノキシノブは、ノキシノブ2倍体とナガオノキシノブ間の異質4倍体で、最近記載されました(Fujiwara et al. (2018) J. Plant Res. 131: 945–959)。今回の論文では、このクロノキシノブの東西集団間に大きな遺伝的分化があることを示しました。この地理的に明瞭な遺伝的分化は、東日本と西日本において独立に異質倍数体化が起きたことが原因だと考えられます。東西集団間の自然雑種には、胞子稔性の部分的低下が観察されました。これは、異所的に独立に生じた異質倍数体集団が、急速に交配後隔離を発達させつつある興味深い事例だと考えられます。

Fujiwara T, Watano Y (2020) Independent allopatric polyploidizations shaped the geographical structure and initial stage of reproductive isolation in an allotetraploid fern, Lepisorus nigripes (Polypodiaceae). PLoS ONE 15(5): e0233095.


新種ナンカイヌリトラノオの記載論文が発行されました(綿野教授)

新種Asplenium serratipinnae T. Fujiw. & Watano(和名 ナンカイヌリトラノオ)の記載論文が発行されました。表紙にも採用されました。

Fujiwara, T., J. Ogiso, S. Matsumoto, Y. Watano (2020) Asplenium serratipinnae (Aspleniaceae: Polypodiales), a new allotetraploid species in the A. normale complex. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica, 71: 13-21.


血液内のゴミ掃除システムを発見(板倉助教・千葉桃果さん・村田教授・松浦教授)

血液中など細胞外に生じた異常タンパク質を細胞が自ら取り込み分解・除去する仕組みを発見しました。細胞の中の異常タンパク質分解の機能はオートファジーと呼ばれ、近年研究が進んでいますが、細胞の外の異常タンパク質に対しても細胞が働きかけられることが今回初めて実証されました。異常タンパク質の中には、アルツハイマー病の発症を引き起こすアミロイドβが含まれており、この仕組みによってアミロイドβの分解も促進されることから、アルツハイマー病治療への将来的な貢献が期待されます。

Eisuke Itakura*, Momoka Chiba, Takeshi Murata, Akira Matsuura (2020) Heparan sulfate is a clearance receptor for aberrant extracellular proteins. Journal of Cell Biology, 219 (3) e201911126


Ras–ERK 経路のドミナントネガティブ抑制因子:Raf の選択的スプライシングにより生ずる DA-Raf とその関連蛋白質(遠藤教授)

Ras によって活性化される ERK 経路 (Raf–MEK–ERK リン酸化カスケード) は,細胞増殖,細胞分化,発生過程の形態形成,成体におけるホメオスタシスなど,さまざまな細胞機能や生理学的機能を制御している.突然変異によりこの経路が異常に活性化すると,がんや RAS 病 (RASopathy) などの疾患につながる.Ras–ERK 経路を抑制する制御蛋白質がいくつか存在する.これらの蛋白質は Ras–ERK 経路の特定の箇所に作用して,それぞれ独自の細胞機能や生理学的機能をあらわす.これらの制御蛋白質の中でも,私たちが発見した DA-Raf は Raf 蛋白質 (A-Raf, B-Raf, C-Raf) の一つである A-Raf のスプライシングアイソフォームであり,Ras 結合ドメインをもっているがキナーゼドメインを欠損している.そのため DA-Raf は Ras–ERK 経路に対してドミナントネガティブの様式で作用する抑制因子として機能する.これにより DA-Raf はアポトーシス,骨格筋細胞分化,肺胞形成などを誘導し,またがん抑制蛋白質として働く.DA-Raf の発見後に,DA-Raf と同様にキナーゼドメインを欠損した Raf 蛋白質のスプライシングアイソフォームがいくつか報告された.これらの蛋白質群は,選択的スプライシングにより,全長をもつ蛋白質に対して拮抗作用をもつ蛋白質が生ずるという概念の代表的な例である.

Endo, T. (2020) Dominant-negative antagonists of the Ras–ERK pathway: DA-Raf and its related proteins generated by alternative splicing of Raf. Exp. Cell Res. 387 (2): 111775 (1–12).


シロチョウ種間の食草利用の差異は食草の化学組成と関連することを発見(岡村 悠さん、村上教授)

シロチョウは主にアブラナ科草本を食草として用いますが、種によって好きな食草が異なります。アブラナ科草本はグルコシノレートと呼ばれる化学防御をもち、この組成が植物種ごとに異なることが知られていました。私たちは、シロチョウ種間の食草選択の違いが、食草の物理的な防御形質(葉の硬さ等)よりもグルコシノレート組成の違いと対応している事を発見し、Journal of Insect Science誌に発表しました。

Yu Okamura, Natsumi Tsuzuki, Shiori Kuroda, Ai Sato, Yuji Sawada, Masami Yokota Hirai, and Masashi Murakami (2019) Interspecific differences in the larval performance of Pieris butterflies (Lepidoptera: Pieridae) are associated with differences in the glucosinolate profiles of host plants. Journal of Insect Science, 19:1–9.


シロチョウが二つの食草解毒遺伝子を食草に応じて使い分けていることを発見(岡村 悠さん、村上教授)

Scientific Reports誌において、シロチョウの幼虫がどのようにして食草に含まれる多様な化学防御物質に適応しているのかを示した論文を出版しました。シロチョウの幼虫は、グルコシノレートと呼ばれる化学防御を含んだアブラナ科草本を食草として利用します。しかしながら、このグルコシノレートは化学的に非常に多様であり、植物によってその組成が様々です。私たちは、シロチョウの幼虫が、2種類のグルコシノレート解毒関連遺伝子を食草のグルコシノレート組成に応じて使い分けることで、より幅広い食草に適応していることを発見しました。

Yu Okamura, Ai Sato, Natsumi Tsuzuki, Yuji Sawada, Masami Yokota Hirai, Hanna Heidel-Fischer, Michael Reichelt, Masashi Murakami & Heiko Vogel (2019) Differential regulation of host plant adaptive genes in Pieris butterflies exposed to a range of glucosinolate profiles in their host plants. Scientific Reports, 9:7256.


シロチョウの持つ2つの食草適応遺伝子の食草転換に伴った進化動態を解明(岡村 悠さん、村上教授)

日本に生息するシロチョウには野生のアブラナ科草本のみを利用するグループと、キャベツ等の野菜のアブラナ科草本を頻繁に利用するグループが存在します。これまでの研究で,シロチョウの幼虫は食草に含まれる多様なグルコシノレートと呼ばれる化学防御を、 NSP と MA というふたつの姉妹遺伝子を用いて解毒する事が示唆されていました。私たちは、食草の選好性が違うこの2グループのシロチョウの NSP と MA を比較し、食草選好性の違いにMAよりも NSP の進化が対応している事を発見しました。これは遺伝子重複後、 NSP は食草によって異なるグルコシノレートに応答してシロチョウ種間で分化する一方で、 MA は食草に幅広く含まれるグルコシノレートに対応するため、種間で機能がより保存されてきた事を示唆します。この結果はMolecular Ecology誌に発表されます。

Yu Okamura, Ai Sato, Natsumi Tsuzuki, Masashi Murakami, Hanna Heidel-Fischer, Heiko Vogel (in press) Molecular signatures of selection associated with host-plant differences in Pieris butterflies. Molecular Ecology.


DNAに取り込まれたリボヌクレオチドの除去修復を担う新たなメカニズムを解明(佐々助教・竹石歩奈さん・原田佳歩さん・鈴木慈さん・浦教授)

細胞のゲノムDNAが複製される際に、DNAポリメラーゼによってしばしば「RNA前駆体」(リボヌクレオチド)が基質として取り込まれることがあります。DNAに取り込まれたリボヌクレオチドが除去されずに蓄積すると、細胞に様々な異常が引き起こされます。本研究では、ヒト細胞においてリボヌクレオチドの除去修復に関わる新たなメカニズムを明らかにしました。DNAに取り込まれたリボヌクレオチドはRNase H2という酵素によって除去されますが、RNase H2がうまく取り除けないような基質に対しては「ヌクレオチド除去修復」と呼ばれる機構が働くことが分かりました。さらに、DNA中のリボヌクレオチドが修復されないままDNA複製の鋳型となった場合には、「損傷乗り越えDNAポリメラーゼ」がDNA合成をスムーズに行うことでゲノム不安定化を抑制している可能性を見出しました。細胞には、この様にゲノムを安定に保つための機構が幾重にも備わっていると考えられます。

Sassa, A., Tada, H., Takeishi, A., Harada, K., Suzuki, M., Tsuda, M., Sasanuma, H., Takeda, S., Sugasawa, K., Yasui, M., Honma, M., Ura, K. (2019). Processing of a single ribonucleotide embedded into DNA by human nucleotide excision repair and DNA polymerase η. Scientific Reports, 9: 13910.


ゲノム編集ヒト細胞を用いて環境中化学物質の毒性を評価する方法を開発(佐々助教)

私たちの細胞のゲノムDNAは、大気汚染物質など身のまわりに存在する多種多様な化学物質によって常に損傷の危険にさらされています。その様な化学物質のリスクを正確に評価することは、社会に大きな貢献を果たすものと考えられます。私たちは、化学物質の安全性を評価する “遺伝毒性試験” に使用されるヒトリンパ芽球細胞TK6において、ゲノム編集技術を用いてDNA修復遺伝子を改変し、様々な環境中化学物質の毒性を特異的に検出することを可能にしました。この様なゲノム編集ヒト細胞株を安全性試験に利用することで、適切な化学物質リスク評価の推進が期待できます。

Sassa, A., Fukuda, T., Ukai, A., Nakamura, A., Takabe, M., Takamura-Enya, T., Honma, M., Yasui, M. (2019). Comparative study of cytotoxic effects induced by environmental genotoxins using XPC- and CSB-deficient human lymphoblastoid TK6 cells. Genes and Environment, 41: 15.


小笠原准教授らの研究グループが「原索動物の消化器系の分子進化」に関する総説を出版

Cell and Tissue Research誌の特集号「Structure, Development and Evolution of the Digestive System(消化器系の構造,発生,および進化)」において,「原索動物の消化器系の分子進化」に関する総説を出版しました.これは近年,研究グループがCell and Tissue Research誌で出版してきた一連の消化器系研究:FABP関連(Orito et al. 2015),Hox, ParaHox関連(Nakayama et al. 2016),消化酵素関連(Nakayama and Ogasawara 2017),腸管免疫関連(Hayashibe et al. 2017)をうけて招待されたものです.消化器系とは,消化管とその付属器官からなる器官系のことであり,従属栄養生物である動物が体内で栄養を摂取するために必要不可欠なものです.この消化器系の機能や構造は,動物群の系統や食性によってかなり異なりますが,我々ヒトを含む脊椎動物やほ乳類を中心に研究が行われてきました.しかし,この脊椎動物の消化器系が動物の進化にともなってどのように成立したのかを理解するためには,脊椎動物より少し原始的な特徴をもつ原索動物(尾索類と頭索類)の消化器系を理解することが重要です.そこで総説では,脊索動物(原索動物と脊索動物)における消化管進化の理解に向けて,解剖・形態学的,生理学的,ゲノム的,遺伝子発現的,発生学的,関連研究分野などの多面的な研究知見の現状をまとめました.

Nakayama, S., Sekiguchi, T., and Ogasawara, M. Molecular and evolutionary aspects of the protochordate digestive system. Cell and Tissue Research. 377(3):309-320.


「見た目の多様性」が種の栄枯盛衰に関係することを発見(高橋助教)

生物には、見た目や行動、性格などのさまざまな側面に種内の多様性があります。このような多様性が集団の増殖率や安定性を高めたりすることは知られていました。しかし、各生物の繁栄や衰退に与える影響は十分にわかっていませんでした。高橋助教らは、種内の色彩(体色や翅色)の多様性が種のグローバルなスケールでの分布範囲や絶滅リスクに与える影響を昆虫や脊椎動物を用いた種間比較法により検証しました。その結果、集団内での色彩多様性が種の分布範囲を拡大させたり、絶滅リスクを低めたりする可能性があることが明らかになりました。

Takahashi, Y. and S. Noriyuki (2019) Color polymorphism influences species’ range and extinction risk. Biology Letters (in press)


マメ科植物と共生する根粒菌の多様性を解明(番場大大学院生・土松准教授・綿野教授)

土松准教授,綿野教授,番場大大学院生らの研究グループは,自然環境下でマメ科植物ミヤコグサと共生する根粒菌のDNAを解析したところ,ミヤコグサは多様な種類の根粒菌と共生し,かつこれらの根粒菌は共生に必要な「鍵」遺伝子を遺伝子水平伝播により獲得した可能性があることがわかりました。自然環境下の植物について多数地域の共生根粒菌を網羅的に調べた研究例は世界的にも数少なく,今回見つかった多様な菌系統は,マメ科農作物の生育を促す根粒菌を作出するための重要な手がかりとなります。本研究成果は,アメリカ植物病理学会が出版する学術雑誌Molecular Plant-Microbe Interactions誌に掲載されました。

Masaru Bamba, Seishiro Aoki, Tadashi Kajita, Hiroaki Setoguchi, Yasuyuki Watano, Shusei Sato, and Takashi Tsuchimatsu. Exploring genetic diversity and signatures of horizontal gene transfer in nodule bacteria associated with Lotus japonicus in natural environments. Molecular Plant-Microbe Interactions (in press)


同種と異種を区別する分子を発見,Nature Plants 誌に掲載(土松准教授)

土松准教授らの研究グループは,東京大学大学院農学生命科学研究科の藤井壮太助教,高山誠司教授らとともに,植物(シロイヌナズナ)が同種の花粉と異種の花粉を識別し,雌しべ上で異種の花粉を選択的に排除するメカニズムを持つことを明らかにし,研究成果をNature Plants 誌で発表しました.研究チームは,ゲノムワイド関連解析と呼ばれる,個体間の形質の違いと DNA配列の違いとの関連を全ゲノムに渡って検出する解析手法を用いることで,異種の花粉の排除に必須な遺伝子を発見し Stigmatic Privacy 1SPRI1)と命名しました. 本研究で見いだした SPRI1 タンパク質を標的とすることで,「種の壁を自在に制御する技術」がつくられ,収量,品質,機能性などが向上した作物の開発が加速することが期待されます.

Fujii, S., Tsuchimatsu, T., Kimura, Y., Ishida, S., Tangpranomkorn, S., Shimosato-Asano, H., Iwano, M., Furukawa, S., Itoyama, W., Wada, Y., Shimizu, K.K., and Takayama, S. (in press) Identification of a stigmatic gene functions in inter-species incompatibility in the Brassicaceae. Nature Plants doi:10.1038/s41477-019-0444-6


テロメアが短いだけでは細胞周期は停止しない?前細胞老化段階の細胞を同定(松浦教授、板倉助教)

真核細胞のゲノムDNAのような直鎖状DNAは、DNAポリメラーゼによる複製の際に最末端までの完全なコピーができないという問題を潜在的に抱えています(末端複製問題)。そのため、染色体DNAの末端(テロメア)は細胞が分裂を繰り返すごとに徐々に短縮していき、これがヒト正常細胞の分裂回数に限界があること(細胞老化)の原因であることが示されています。短くなったテロメアは、DNAに生じた傷を検知するDNA損傷チェックポイントシステムにより認識され、このシステムの活性化が細胞老化過程で細胞分裂の停止をもたらすと考えられてきました。私たちのグループは、DNA損傷チェックポイントの活性化状態を1細胞レベルで検出できるレポーターを使って、最終的な老化に至るまでの過程で、DNA損傷チェックポイントが活性化しているものの細胞分裂が依然として可能な時期があることを見出しました。その時期には、細胞周期の遅延が生じ、老化細胞に特徴的な細胞体積の増大がおきます。テロメアが閾値以下に短縮することは細胞老化への引き金としては重要ですが、老化細胞に特徴的な細胞形質の変化はテロメアの短さとは直接関係がなく、前老化状態で細胞周期が回転することによる結果のようです。

Miura, A. et al. (2019) Reversible DNA damage checkpoint activation at the presenescent stage in telomerase-deficient cells of Saccharomyces cerevisiae. Genes Cells, DOI: 10.1111/gtc.12706
Miura, A. & Matsuura, A. (2019) Phosphatase-dependent fluctuations in DNA-damage checkpoint activation at partially defective telomeres. Biochem. Biophys. Res. Commun., DOI: 10.1016/j.bbrc.2019.06.030


DA-Raf は骨格筋細胞分化とアポトーシスの誘導因子である(高橋和也,板倉助教,高野助教,遠藤教授)

Ras によって活性化される ERK カスケード (Raf–MEK–ERK リン酸化カスケード) はさまざまな細胞現象や生体現象を制御しています.たとえば Ras–ERK カスケードは骨格筋細胞分化を阻害したり,アポトーシスを阻害するように働いています.私たちが発見した DA-Raf は,Raf の一つである A-Raf の遺伝子から選択的スプライシングにより生じ,Ras–ERK カスケードのドミナントネガティブ抑制因子として作用する蛋白質です.私たちは,DA-Raf がこの作用により次の 2 つの細胞機能をもっていることを明らかにしました.(1) DA-Raf は Ras–ERK カスケードによって抑制される筋特異的MyoD ファミリー転写因子の発現と活性化を通して,筋特異的遺伝子の発現と筋細胞融合をもたらし,骨格筋細胞分化を誘導する.(2) DA-Raf は Ras–ERK カスケードによって抑制されるアポトーシス誘導蛋白質 Bad を活性化して,アポトーシスを誘導する.

Takahashi, K., Itakura, E., Takano, K., and Endo, T. (2019) DA-Raf, a dominant-negative regulator of the Ras–ERK pathway, is essential for skeletal myocyte differentiation including myoblast fusion and apoptosis. Exp. Cell Res. 376: 168–180.

高橋助教らの研究グループが、「トンボにおける種内の色彩多様性を生み出す遺伝子」に関する論文を発表

Heredity誌においてアオモンイトトンボの色彩型間の遺伝子発現を比較した論文を出版しました。このトンボでは、雌雄で体色が異なることが一般的ですが、一部の雌では、雄にそっくりな体色になることが知られています。一般的な雌と雄に擬態した雌について遺伝子発現を網羅的に比較したところ、昆虫において性差の決定に非常に重要な役割を果たすdoublesex遺伝子の発現量が異なることがわかりました。

Takahashi, M., Y. Takahashi and M. Kawata (2019) Candidate genes associated with color morphs of female-limited polymorphisms of the damselfly Ischnura senegalensis, Heredity, 122: 81–92.

佐々助教らの研究グループが「リボヌクレオチドが引き起こすゲノム不安定化」に関する総説を出版

Genes and Environment誌において,「DNAに取り込まれたリボヌクレオチドが引き起こすゲノム不安定化」に関する総説を出版しました。DNAの複製は,DNAポリメラーゼがDNA前駆体を用いて行いますが,その過程でしばしばRNA前駆体(リボヌクレオチド)が基質として取り込まれます。それらが適切に除去されずゲノムDNAに蓄積すると,細胞に様々な異常が起こり,ヒトでは深刻な先天性奇形症候群の発症に関連すると言われています。本総説では,哺乳類細胞でリボヌクレオチドがどの様な経路でDNAに取り込まれ,またそれに対していかなる除去修復機構が備わっているのかについて最新の知見を解説しています。

Sassa, A., Yasui, M., and Honma, M. (2019). Current perspectives on mechanisms of ribonucleotide incorporation and processing in mammalian DNA, Genes and Environment. 41: 3.

土松准教授の研究グループが集団ゲノミクスに関する総説を出版

日本発生生物学会の英文誌 Development, Growth & Differentiation誌の「発生・生態・進化」特集号において,植物の集団ゲノミクスに関する総説を出版しました.集団ゲノミクスは,種内の多数の個体のゲノム情報に基づいて,過去の適応や種分化の歴史を推定したり,ゲノムワイド関連解析(GWAS)等を用いて自然変異の原因遺伝子を特定したりするアプローチです.総説では,最近とくに研究が進んでいるシロイヌナズナやその近縁種,イネやトウモロコシ,タルウマゴヤシの研究例をまとめています.また,Glossary Box や図を用いて研究手法に関する解説も行っており,集団ゲノミクスに馴染みのない方にも分かりやすい総説になるよう心がけました.

Bamba, M., Kawaguchi, Y. W., and Tsuchimatsu, T. Plant adaptation and speciation studied by population genomic approaches. Development, Growth & Differentiation. 25 Nov 2018

ラパマイシン標的タンパク質が関わるシグナル伝達系において多様な下流経路を選択的に制御する機構を発見(松浦教授、板倉助教)

ラパマイシン標的タンパク質(TORタンパク質)を内包するTORC1複合体は、栄養やストレス等の外的環境変化に応答して、細胞内のタンパク質合成活性を多方面から制御するタンパク質キナーゼ複合体です。この系はTORC1の活性調節により下流の複数経路を一元管理していますが、ストレス環境においては下流経路のうちの特定の経路のみが遮断される現象が観察されていました。私たちのグループは、出芽酵母のTORC1とその下流で働くSch9が液胞膜上に存在することに着目し、液胞膜の状態変化によりSch9が液胞膜から遊離すること、そのようなSch9の局在制御を介してTORC1からSch9に向かう経路のみが特異的に調節されていることを発見しました(Takeda et al., Mol. Biol. Cell 2018)。このしくみは、酸化ストレス条件下でTORC1の下流経路のうちのSch9を介するシグナル伝達のみを抑制することに関わっています。これまで、哺乳類細胞を用いた研究により、TORC1によるリン酸化の基質となるタンパク質の間にリン酸化されやすさの違いがあり、そのような基質の質的差異によってTORC1の下流経路ごとの出力が調節されていることが示されていました(Substrate quality model)。その機構に加えて、基質の局在変化により出力を調節する機構が存在することが、本研究により明らかになりました(Substrate localization model; Takeda and Matsuura, Commun. Integr. Biol. 2018)。

自然界でも〝個性〟が重要! 「おっとり型」と「せかせか型」の共存が集団のパフォーマンスを高める(高橋助教)

生物の集団内の多様性(ダイバーシティー)が集団に対してどのような機能を果たすかはほとんど調べられていませんでした。モデル生物のキイロショウジョウバエには、遺伝子に支配された2つの個性(おっとり型、せかせか型)が共存することが知られています。本研究では、ショウジョウバエにおける集団内の行動の個性の多様さ(おっとり型とせかせか型の共存)が集団の生産性や安定性を高めることを発見しました。

Takahashi, Y., R. Tanaka, D. Yamamoto, S. Noriyuki, M. Kawata. (2018) Balanced genetic diversity improves population fitness. Proc. R. Soc. B, 285: 20172045.

ソテツ類Dioon属の系統地理学:新生代メキシコにおける分布拡大と多様化(綿野教授)

メキシコは新北区と新熱帯区の移行帯にあたり、生物地理学的に興味深い地域です。日本学術振興会特別研究員DC2のメキシコからの留学生であるホセ君は、メキシコに生育するソテツ類Dioon属の系統解析を行い、4つの主要クレードが認識でき、それぞれが異なる生物地理区に対応するという強い系統地理学的構造が存在する事を明らかにしました。分岐年代推定の結果と合わせて考察することで、Dioon属の分布拡大と多様化が、新熱帯北端の生物地理区の新生代における多様化に伴って生じたことが示されました。この研究成果をまとめた論文がAnnals of Botanyにおいて12/27に掲載されました。

José Said Gutiérrez-Ortega, María Magdalena Salinas-Rodríguez, José F Martínez, Francisco Molina-Freaner, Miguel Angel Pérez-Farrera, Andrew P Vovides, Yu Matsuki, Yoshihisa Suyama, Takeshi A Ohsawa, Yasuyuki Watano, Tadashi Kajita (2018) The phylogeography of the cycad genus Dioon (Zamiaceae) clarifies its Cenozoic expansion and diversification in the Mexican transition zone. Ann. Bot. 121:535-548

DA-Raf は Ras によるがん化に対してがん抑制蛋白質として働く(遠藤教授、高野助教)

ヒトのがんでは RAS 遺伝子,特に KRAS 遺伝子の活性化突然変異が高頻度でみられます.活性化突然変異をもつ Ras 蛋白質は恒常的に ERK カスケード (Raf–MEK–ERK リン酸化カスケード) を活性化して,細胞のがん化と腫瘍形成を引き起こします.私たちが発見した DA-Raf は,Raf の一つである A-Raf の遺伝子から選択的スプライシングにより生じ,Ras–ERK カスケードのドミナントネガティブ拮抗因子として作用する蛋白質です.この作用により,DA-Raf は活性化突然変異 K-Ras によって引き起こされるがん化を抑制しました.それに対し,ヒトの一塩基多型 (SNP) をもつ DA-Raf(R52Q),および肺がんでみられる突然変異をもつ DA-Raf(R52W) は,活性化 K-Ras による細胞のがん化とマウスにおける腫瘍形成を抑制しませんでした.また KRAS 遺伝子の活性化突然変異をもつヒト肺腺がん細胞株では,DA-Raf の発現が顕著に低下していました.したがって DA-Raf は K-Ras によって誘導されるがん化に対してがん抑制蛋白質として働いていると考えられます.

Kanno E, Kawasaki O, Takahashi K, Takano K, Endo T (2018) DA-Raf, a dominant-negative antagonist of the Ras–ERK pathway, is a putative tumor suppressor. Exp Cell Res. 362:111-120.

乾燥化が、ソテツ類Dioon属のメキシコにおける種多様化を促進した!(綿野教授)

気候変動としての乾燥化は、生物多様性にとっての脅威であると同時に、いくつかの分類群にとっては、ハビタットシフトを通じた種多様化の原動力であった可能性があります。日本学術振興会特別研究員DC2のメキシコからの留学生であるホセ君は、メキシコに生育するソテツ類Dioon属の系統解析を行い、種多様化と、半湿潤から半乾燥環境へのハビタットシフトが、中新世に起こった事を明らかにしました。これは、メキシコにおいて乾燥地が拡大した時期に一致します。彼はまた、乾燥適応に関連する形態的形質の進化についても詳細に記述を行いました。この研究成果をまとめた論文がAnnals of Botanyにおいて11/16に掲載されました。

José Said Gutiérrez-Ortega, Takashi Yamamoto, Andrew P Vovides, Miguel Angel Pérez-Farrera, José F Martínez, Francisco Molina-Freaner, Yasuyuki Watano, Tadashi Kajita (2018) Aridification as a driver of biodiversity: a case study for the cycad genus Dioon (Zamiaceae). Ann. Bot. 121: 47-60.

ヌリトラノオ異質四倍体が複数の隠蔽種を含むことを発見(綿野教授)

異質倍数体形成は、維管束植物の主要な種分化機構の一つです。日本学術振興会特別研究員DC1の藤原泰央君は、シダ植物のヌリトラノオを対象に、集団遺伝学、フラボノイド分析、系統解析など様々な手法を駆使して、この種の4倍体細胞型は、少なくとも三つの隠蔽種(形態的には区別されていなかったが、生殖的隔離を持つもの)に区別できることを示しました。これら隠蔽種は全て異質四倍体でしたが、同じ親の組み合わせの隠蔽種が含まれていました。独立の倍数化イベントが種分化につながる興味深い例の発見だといえます。この研究成果をまとめた論文がAmerican Journal of BotanyのAdvanced Accessにおいて9/7に掲載されました。

過去の主な論文発表

  • 遺伝子発現制御研究室(田村教授)の研究成果が J. Biol. Chem. に掲載されることになりました。(2017.1.18)
  • 発生運動研究室(阿部准教授)の研究成果が Mol. Biol. Cell に掲載されました。(2015.12.2)
  • バイオシグナル研究室(遠藤教授)の論文が Bone に掲載されました。(2015.11.1)
  • 遺伝子発現制御研究室(田村教授)の研究成果が Nucleic Acids Research に掲載されました。(2015.6.1)
  • バイオシグナル研究室(遠藤教授/高野助教)の研究成果が PLoS One に掲載されました。(2015.5.21)
  • バイオシグナル研究室(遠藤教授/高野助教)の研究成果が Proc. Natl. Acad. Sci. USA に掲載されました。(2014.5.20)
  • 分子モーター研究室(伊藤准教授)の研究成果が J. Biol. Chem. に掲載されました。)
  • (2014.3.17)
  • 分子モーター研究室(伊藤准教授)の研究成果が Dev. Cell に掲載されました。また,その内容が11.12に日本経済新聞,産経新聞,Yahoo! ニュース (時事通信社配信)で紹介されました。(2013.11.11)
  • 発生運動研究室(阿部准教授)の研究成果が Mol. Biol. Cell に掲載されました(2013.6.27)
  • 細胞機能制御研究室(松浦教授)がオートファジーによってがんの原因となる染色体異常が抑制されるメカニズムを明らかにしました(2013.2.1)
  • バイオシグナル研究室(遠藤教授/高野助教)の研究成果が Mol. Biol. Cell に掲載されました(2012.10.12)
  • 海洋バイオシステム研究センター(富樫教授)の研究成果が PNAS に掲載されました(2012.8.21)
  • 遺伝子発現制御研究室(田村教授)の研究成果が J. Biol. Chem. に掲載されました(2012.6.18)
  • 生体高分子機能学研究室(木村教授)の研究成果が J. Mol. Biol. に掲載されました(2011.6.10)
  • バイオシグナル研究室(遠藤教授/高野助教)の研究成果が Science に掲載されました(2010.12.10)
  • 分子モーター研究室(伊藤准教授)の研究成果が PNAS に掲載されました(2009.12.02)