森林林冠部の生物群集構造解析
森林の林冠部は、地球上で最も高い生物多様性が観察される場所であり、そこでの膨大な多様性全体を説明することは生態学の大きなテーマと言えます。森林の三次元構造と鳥類の多様性を結びつけたMacArthur
& MacArthur (1961)
の先駆的な研究以降、空間的な異質性が多様性と「相関」することを検証した研究がいくつか発表されていますが、その関係をメカニスティックに説明した研究は未だ見られません。私たちは、リモートセンシングなどの情報技術、林冠クレーンといった大規模施設、国際的な林冠クレーンネットワークを活用し、森林林冠部の膨大な多様性全体を説明するモデルを構築することを目指しています。
食草選択性の進化と遺伝基盤と種の多様化
地球は緑の惑星といわれますが、その緑の植物の上には、かならずイモムシといった植食者をみつけることができます。これらの植食性昆虫の餌となる植物は何でも良いというわけではなく、それぞれの種で好き嫌いがはっきりしています。さらに、多数の植物種を利用することができる種と、ごく少数の限られた種のみを利用できる種がいます。このような植食性昆虫による餌選択がどのような機構で起こるのか、代表的な植食者である鱗翅目を主な材料として、摂食実験や遺伝子発現解析、代謝物解析(メタボローム)など、マクロ・ミクロ生物学の手法を組み合わせて研究を進めています。
放射性物質の循環
2011年に起こった福島第一原子力発電所事故により、放射性物質が大気中に放出され、その多くが地表に飛散しました。放射性物質のなかでは、比較的半減期の長い放射性セシウムがもっとも影響が大きいと考えられます。本研究室では、これまで、生物間の食う食われるの関係=食物網構造について研究を行っていました。その経験をもとに、放射性セシウムがどのように生態系の中で生物間を移動しているのか、できるだけ詳細に記述することが、われわれがやるべきことと考え、事故以来調査を続けています。
島嶼における生物群集の形成機構
ある場所に成立する局所的な生物群集の成立機構を考えるとき、その母集団として背後の「大陸」の群集を考える必要があります。これは、MacArthor &
Wilsonの有名な島嶼生物地理学の平衡理論に端的に示される群集生態学の基本的な見方です。日本列島といった島に成立する生物群集は、大陸からの個体の移入そして島での種分化により形成されます。私たちは、鳥類や雪氷藻類を対象として、全球規模度での島(孤立)群集の特徴を解析することで、大陸からの分散と種分化の相互作用の生物群集形成における働きの解明を試みています。
遺伝的多様性の進化とその生態的帰結
種内の遺伝的多型はさまざまな分類群で見られる現象です。当研究室では、花や昆虫を材料に色彩や行動、形態の種内多型が進化的に維持されるメカニズムを探るとともに、このような種内の多様性が直接的あるいは進化を通じて間接的に集団の人口学的動態に与える影響について、野外生物やデータベース、ゲノム情報、数理モデルなどを駆使しして研究を進めています。色彩多型を生じさせる遺伝的基盤についても調べています。
個性と集団のパフォーマンス
三人寄れば文殊の知恵、ということわざにあるように、多様な個性の集合は、さまざまな相乗効果をもたらすことがあります。本研究室では、ショウジョウバエ類の群れ行動に着目して、その遺伝基盤を探るととともに、個性が群れの構造や群れとしてのパフォーマンスに与える影響を解析しています。
不完全な進化と生物の分布域の進化
生物は、自然選択を通じて進化することができます。そのため、分布域の辺縁の集団が、直面した新たな環境に適応しつづけることによって、分布を際限なく拡大させるポテンシャルをもっているといえます。とはいえ、実際には、どの生物種も限られた地域、あるいは環境にのみ生息しています。したがって、生物の分布を決定するメカニズムを理解するためには、分布の辺縁部でさらなる進化が抑制されるメカニズムの解明が不可欠なのです。しかし、そのようなメカニズムを野外で検証した例はほとんどありません。トンボ類や河川性のカワニナなどの生物に着目し、分布限界の成立機構を調べています
都市化における生物の進化と栄枯盛衰
都市は急速な環境変化が起きている場所です。また、それに起因したさまざまなストレス源のある場所です。私たちは、高温や光害、騒音といった環境ストレスに着目し、都市の生物がどんな進化と遂げているのか、また、どのような弊害を受けているのかを表現型レベル、遺伝子レベル、エピゲノムレベルで調べています。主な材料としてショウジョウバエを用いています。