筋発生生物学研究室


佐藤成樹 准教授 細胞生物学 筋収縮機構の形成と調節のメカニズム sato#faculty.chiba-u.jp(#→@)



筋肉はどのようにして作られ、その機能を果たすのか?

最終分化した筋細胞が収縮機能という特徴的な形質を発現するためには、合成されたタンパク質が収縮運動装置(筋原線維)へ正しく集合し、その機能を発揮することが不可欠である。タンパク質分子の筋原線維への集合過程はどのように制御されるのか、また集合したタンパク質はどのようにして調和した筋の収縮を制御するのか?これらのことを明らかにするために、1 )トロポニンを介した筋収縮制御機構の進化と普遍性、2 )筋収縮調節に関わる多機能分子・ミオシン結合タンパク質の機能、3 )プロバイオティクスによる筋細胞の可塑性、4)収縮運動装置形成を導く機構、などを研究している.

主な研究テーマ

  1. 筋収縮制御機構の進化と普遍性
  2. ミオシン結合タンパク質を介した筋収縮調節機構
  3. プロバイオティクスによる筋細胞の可塑性
  4. 収縮運動装置形成を導く機構

筋収縮制御機構の進化と普遍性

筋肉による運動は、動物を動物たらしめる最も顕著なものの一つである。当研究室は筋の収縮制御機構が動物の進化過程でどのように変化し、また普遍性を維持しているのかに興味を持って、1)原索動物尾索類ホヤでは横紋筋と平滑筋にトロポニンが発現し、その機能は他の多くの動物で認められるブレーキ型ではなくアクセル型であること、2)水腔動物(棘皮・半索動物)の成体筋にはトロポニンが認められないこと等を明らかにした。現在は扁形動物など多様な生物における筋収縮制御機構の実体を解明中である。

ミオシン結合タンパク質を介した筋収縮調節機構

Myosin-binding protein C (C-タンパク質)はミオシン線維の集合と安定化を担うと考えられているタンパク質で筋繊維タイプに応じて複数のアイソフォームが存在する。当研究室ではマウスC-タンパク質のcDNAクローニングと構造決定を行い、筋形成過程での発現特性を解明した。また、加齢に伴いマウス心臓で選択的RNA スプライシングにより機能異常の心筋型C-タンパク質が発現することを見いだし、老化に伴う心不全の一因かもと推測している。現在、C-タンパク質のN-端側領域にアクチン結合能があることを見いだし、C-タンパク質が筋収縮調節タンパク質として機能している可能性を研究している。

プロバイオティクスによる筋細胞の可塑性

プロバイオティクス効果を持つ発酵えさを摂取することで動物の生理活性は良好となる。特にブタについては免疫力の増強と脂肪量の減少から、「メタボではない(non-meta)豚からできた肉」としてノンメタポークのブランド名で千葉大学を中心とした産学連携チームが販売を行っている。本研究室では発酵えさによるノンメタ化現象が筋肉に及ぼす影響を明確にすることを目的に、筋タンパク質の発現パターンを解析している。これまでの研究からタンパク質の発現に変化が生じていることが見いだされ、筋の質が変化していることがわかってきた。

収縮運動装置形成を導く機構

コフィリン(CF)は生物種、細胞種を越えて、アクチン線維の動態を制御するアクチン結合タンパク質で、哺乳類では筋型と非筋型の2種類のCFの存在が存在する。本研究室では培養筋細胞を用いて、筋型CF の過剰、不足、機能抑制を導くとアクチン線維の異常な集合が生じ筋原線維の形成に障害が起こることを見出した。また、筋型CF 遺伝子をヘテロに欠損するキメラマウスを作成することで、CF 欠損が個体レベルで心臓や骨格筋の筋繊維に大きなダメージを与えることを見出し、筋型CFが筋原線維の形成と維持に極めて重要であることを明らかにした。

最近の研究業績

原著論文

  1. Chimeric mice with deletion of Cfl2 that encodes muscle-type cofilin (MCF or Cofilin-2) results in defects of striated muscles, both skeletal and cardiac muscles. Mohri K, Suzuki-Toyota F, Obinata T, Sato N. Zoological Science, in press.
  2. Characterization of paramyosin and thin filaments in the smooth muscle of acorn worm, a member of hemichordates. Sonobe H, Obinata T, Minokawa T, Haruta T, Kawamura Y, Wakatsuki S, Sato N. The Journal of Biochemistry. 2016. 160, 369-379
  3. Sea lily muscle lacks a troponin-regulatory system but contains paramyosin. Obinata T, Amemiya S, Takai R, Ichikawa M, Toyosima YY, Sato N. Zoological Science. 2014. 31, 122-128
  4. Cofilin is required for organization of sarcomeric actin filaments in chicken skeletal muscle cells. Miyauchi-Nomura S, Obinata T, Sato N. Cytoskeleton (Hoboken). 2012. 69, 290-302
  5. Comparative studies on troponin, a Ca2+-dependent regulator of muscle contraction, in striated and smooth muscles of protochordates. Obinata T, Sato N. Methods. 2012. 56, 3-10
  6. Differential expression of two cardiac myosin-binding protein-C isoforms in developing chicken cardiac and skeletal muscle cells. Saruta K, Obinata T, Sato N. Zoological Science. 2010. 27, 1-7.
  7. Troponin in both smooth and striated muscles of ascidian Ciona intestinalis functions as a Ca2+-dependent accelerator of actin-myosin interaction. Ohshiro K, Obinata T, Dennisson JG, Ogasawara M, Sato N. Biochemistry. 2010, 49, 9563-9571.
  8. Functional characteristics of amphioxus troponin in regulation of muscle contraction. Dennisson JG, Tando Y, Sato N , Ogasawara M, Kubokawa K, Obinata T. Zoological Science. 2010. 27, 461-469.
  9. Activity of cofilin can be regulated by a mechanism other than phosphorylation/dephosphorylation in muscle cells in culture. Hosoda A, Sato N, Nagaoka R, Abe H, Obinata T. Journal of Muscle Research and Cell Motility. 2007, 28, 183-94.
  10. A novel variant of cardiac myosin-binding protein-C (MyBP-C/C-protein) that is unable to assemble into sarcomeres is expressed in the aged mouse atrium. Sato N, Kawakami T, Nakayama A, Suzuki H, Kasahara H and Obinata T. Molecular Biology of the Cell. 2003. 14: 3180-3191

総説

  1. 毛利蔵人,中島紀代子,細田敦子,佐藤成樹,大日方昂 (2001)「筋型コフィリンの分子機構」 生体の科学  52(4): p273-279
  2. 佐藤成樹  (1995) 「細胞接着装置に局在する裏打ちタンパク質と新しい接着分子」 医学の歩み  174: 1, p8-12
  3. 武内恒成, 佐藤成樹 (1994)「細胞間接着の制御とシグナル伝達」 化学と生物  32, p416-418

書籍

  1. 佐藤成樹 (2018) 分担執筆:第15章 翻訳に関わる分子 分子生物学ゲノミクスとプロテオミクス Jordanka Zlatanova & Kensal E. van Holde著 田村隆明監訳
  2. 佐藤成樹 (2009) 分担執筆:第20章 タンパク質修飾および蛍光/発光試薬 ライフサイエンス試薬活用ハンドブック(田村隆明編)羊土社
  3. 佐藤成樹,武内恒成 (1994) 分担執筆:第6部 ERMファミリー  細胞工学別冊ハンドブックシリーズ 接着分子ハンドブック 宮坂昌之監修 

学生へのメッセージ

細胞には様々な特徴的構造が存在します。構造と機能の関連に興味を持って「目で見て考える生物学」をモットーに研究に取り組んでいます。