筋収縮制御機構の進化と普遍性
筋肉による運動は、動物を動物たらしめる最も顕著なものの一つである。当研究室は筋の収縮制御機構が動物の進化過程でどのように変化し、また普遍性を維持しているのかに興味を持って、1)原索動物尾索類ホヤでは横紋筋と平滑筋にトロポニンが発現し、その機能は他の多くの動物で認められるブレーキ型ではなくアクセル型であること、2)水腔動物(棘皮・半索動物)の成体筋にはトロポニンが認められないこと等を明らかにした。現在は扁形動物など多様な生物における筋収縮制御機構の実体を解明中である。
ミオシン結合タンパク質を介した筋収縮調節機構
Myosin-binding protein C (C-タンパク質)はミオシン線維の集合と安定化を担うと考えられているタンパク質で筋繊維タイプに応じて複数のアイソフォームが存在する。当研究室ではマウスC-タンパク質のcDNAクローニングと構造決定を行い、筋形成過程での発現特性を解明した。また、加齢に伴いマウス心臓で選択的RNA スプライシングにより機能異常の心筋型C-タンパク質が発現することを見いだし、老化に伴う心不全の一因かもと推測している。現在、C-タンパク質のN-端側領域にアクチン結合能があることを見いだし、C-タンパク質が筋収縮調節タンパク質として機能している可能性を研究している。
プロバイオティクスによる筋細胞の可塑性
プロバイオティクス効果を持つ発酵えさを摂取することで動物の生理活性は良好となる。特にブタについては免疫力の増強と脂肪量の減少から、「メタボではない(non-meta)豚からできた肉」としてノンメタポークのブランド名で千葉大学を中心とした産学連携チームが販売を行っている。本研究室では発酵えさによるノンメタ化現象が筋肉に及ぼす影響を明確にすることを目的に、筋タンパク質の発現パターンを解析している。これまでの研究からタンパク質の発現に変化が生じていることが見いだされ、筋の質が変化していることがわかってきた。
収縮運動装置形成を導く機構
コフィリン(CF)は生物種、細胞種を越えて、アクチン線維の動態を制御するアクチン結合タンパク質で、哺乳類では筋型と非筋型の2種類のCFの存在が存在する。本研究室では培養筋細胞を用いて、筋型CF の過剰、不足、機能抑制を導くとアクチン線維の異常な集合が生じ筋原線維の形成に障害が起こることを見出した。また、筋型CF 遺伝子をヘテロに欠損するキメラマウスを作成することで、CF 欠損が個体レベルで心臓や骨格筋の筋繊維に大きなダメージを与えることを見出し、筋型CFが筋原線維の形成と維持に極めて重要であることを明らかにした。