形態形成学研究室


田尻怜子 准教授 発生生物学、昆虫クチクラの形成機構 自然科学系総合研究棟1 809室 rtajiri#chiba-u.jp(#→@)
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生物の体を形づくる多彩な材料はどうやってできるのか

人類が紙や鉄など新しい材料を手に入れるたびに暮らしぶりを変えてきたように、生物の多様な生きざまは、体を形づくる材料の多彩さによって支えられています。特に昆虫は100万種以上が知られ、既知の生物種の半数以上が昆虫というほどの多様性を誇ります。その繁栄を支える基盤の一つが、昆虫のクチクラ(体を覆う殻・皮)の多彩な性質です。例えばカブトムシの非常に硬いクチクラ、モルフォ蝶の鮮やかな青色のクチクラ、擦り合わせると美しい音を発するコオロギのクチクラ、などなど、昆虫は実に多彩な性質のクチクラをみずから作って身にまとっています。昆虫はどうやって多彩な性質のクチクラを作るのか?当研究室ではその解明に挑んでいます。

主な研究テーマ

  1. ショウジョウバエ幼虫クチクラの形成機構
  2. 多様な昆虫のクチクラ形成機構
  3. クチクラ形成過程の人工的な再現

ショウジョウバエ幼虫クチクラの形成機構

クチクラの主な成分はタンパク質とキチン(セルロースに似た繊維状の多糖)です。ショウジョウバエの幼虫の体を覆うクチクラから特定のタンパク質を除いたり、逆に加えたりすると、クチクラの物理的な性質が変化し、それによって個体の体型が異常をきたすことを見つけました。さらに、クチクラの中にあるそれらのタンパク質やキチンを直接観察することで、緻密な立体的構造をとらえることができました。これらの技術を用いて、クチクラの立体的構造がどのように編み出され、それがクチクラの物理的性質にどうつながるのか、明らかにしたいと思っています。

多様な昆虫のクチクラ形成機構

地球上の百万種以上の昆虫がそれぞれ、硬いクチクラ、色鮮やかなクチクラ、などなど実に個性的な性質のクチクラを作りだす能力を持っています。ショウジョウバエの研究で培った技術と知見を活かしながら、多様な昆虫が多彩なクチクラをつくりだす仕組みを明らかにしようとしています。

クチクラ形成過程の人工的な再現

表皮の細胞からタンパク質とキチンが産生されてクチクラを織りなしていく過程は非常に複雑で、生きた昆虫の個体でこまかく観察することは難しい、という課題があります。この過程を試験管やシャーレの中で人工的に再現することで、詳細な解析が可能になると考えています。

最近の研究業績

原著論文

  1. Tajiri R, Fujiwara H, Kojima T. (2021) A corset function of exoskeletal ECM promotes body elongation in Drosophila. Commun Biol 4, 88.
  2. Tajiri R, Ogawa N, Fujiwara H, Kojima T. (2017) Mechanical control of whole body shape by a single cuticular protein Obstructor-E in Drosophila melanogaster. PLOS Genet. 13 (1), e1006548.
  3. Tajiri R, Misaki K, Yonemura S, Hayashi S. (2011) Joint morphology in the insect leg: evolutionary history inferred from Notch loss-of-function phenotypes in Drosophila. Development 138 (21), 4621–4626.
  4. Tajiri R, Misaki K, Yonemura S, Hayashi S. (2010) Dynamic shape changes of ECM-producing cells drive morphogenesis of ball-and-socket joints in the fly leg. Development 137 (12), 2055–2063.

総説

  1. Tajiri R. (2017) Cuticle itself as a central and dynamic player in shaping cuticle. Curr Opin Insect Sci 19C, 30-35.
  2. 田尻怜子 (2012) ぴったりとはまり合って動く関節は、どのようにできるのか?どうやってできたのか?-昆虫の肢の関節の発生と進化 生物科学 63 (3), 157-165.